医療従事者に知って欲しいSMBG血糖自己測定手技のポイント
監修:松岡健平 著者:虎石顕一、中野玲子、武藤達也 編集:朝倉俊成
この度,血糖自己測定について,機器の仕様と採血・測定の手技に特化した書籍が,日常の業務として,糖尿病患者に接している薬剤師のグループにより上梓されたことは快挙といってよい。「1mg/dLでも正確に」という情熱が伝わってくる。小生に監修を依頼されたので,私も彼らと同様の熱意をもって検分したが,申し分ない内容と記述であった。
私が内科のレジデントでボストン郊外の瀟洒な病院にロテイトしていた1964年の秋のことだった。入院中の患者を回診に来た開業医の先生が「君,こんなの知ってる?」と言って見せてくれたのが,グルコスティックだった。早速,患者のところへ行き,指先から採血して,スティックの裏側から軽く流水で流して,ティッシュペーパーで拭き,瓶の横に印刷されている比色表に合わせて目測すると,300mg/dLくらいありそうだった。
「高いか,低いかくらいはわかる」と言って,インスリンの追加容量をオーダーした。血糖測定のデータが検査室から戻ってくるのに,30分くらいかかった時代だから,感激だった。数日後,その先生から.スティックの空き瓶をもらって,水彩絵の具で黄色→緑→青→藍と段彩の帯を作った。「これを使えば色彩表の中間の数値が読み取れる」と勇んで見せたら,「これは君,特許が取れるね」と褒めてくれたまでは良かったのだが,「ベッドサイドではこの程度で結構だよ」とのことだった。
半世紀近い歳月が流れ,ギロチンめいたデザインだった穿刺器具は,今では針は見えず,痛みも少ない。長年,メーカーは測定域を広げ,測定時間を短縮することを販売促進の材料としてきたが,今後は自己測定の目的に応じて,用途に応じた機種の開発が望まれる。血糖自己測定の用途は限りなく広がった。自分の血糖コントロールを知る,インスリン用量・用法の計画に利用する,治療の動機づけとなり,かつケアの質の向上につながる,など。さらに近年の連続血糖測定は最終目標をインスリン注入装置の作動においている。したがって,測定機器の較正に用いる簡易血糖測定器の精度と安定性は一段と高める必要がある。
本書では,何時測るか,そのデータの利用をどのようにするかといった主治医の判断に関することには一切触れていないところがよい。今や,患者が作り出すデータがなければ,適切な療養指導は不可能である。「作り出す」と書くと,「でっち上げる」印象があるが,英語で「プロデュースする」と言うと建設的だ。療養指導士は患者との接遇時間が長い。測定機器が患者の手に渡ったあと,使用上の問題点やトラブルシューティングはもとより,日常気づかなかった患者サイドで得られる医療現場での発見があるだろう。それらは速やかに臨床に翻訳・応用できるものがあり,現場の情報を早急にベンチ(研究室)にフィードバックすることは,translational medicineの時代の要請である。
(監修:松岡健平「発刊によせて」)
以下、目次より抜粋。
第1章 血糖測定器,穿刺器具等の特徴/虎石顕一
第2章 血糖測定の準備/虎石顕一/中野玲子/武藤達也
第3章 採血方法/武藤達也
第4章 測定手技/中野玲子
第5章 穿刺後,測定後の処理手技/中野玲子
●B5・108ページ 2012年発行 メディカルレビュー社
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