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52アルドース還元酵素阻害薬
1. ポリオール代謝
 ブドウ糖をはじめ単糖の第1位のCはCHOとアルデヒド基となっている。このCにH2が結合してとなり糖アルコールになったものはポリオールで、ブドウ糖のポリオールはソルビトールと呼ばれる(図1)。
図1 ポリオールの種類と前駆物質
 ソルビトールは1900年に発見され、それが精子のエネルギー産生経路であることがHers(1956年)により明らかにされた。続いてVan Heyningen(1959年)はアロキサン糖尿病家兎の白内障レンズの中にソルビトールが、異常高値であることを見出した。マサチュセッツ総合病院(MGH)眼科研究部のJ. H. Kinoshitaはラットの飼料にガラクトースを加えて飼育し、ラットが白内障になってからレンズを分析し、そこにガラクチトール(dulcitol)が蓄積していることを認め、このポリオールの蓄積が白内障の原因であることを指摘した。
 ガラクトースはdulcitolになってもさらに代謝されないのでレンズやその他の組織に蓄積する(図2)。Kinoshita博士がMGHのカンファレンスでその成績を発表するのを聴いていたレジデントのK. H. Gabbyは、糖尿病でも同様にポリオールがレンズのみらなず神経にも蓄積するのではなかろうかと考えた。そしてアロキサン糖尿病ラットの神経を分析し、ソルビトール、果糖が増量していることを見出した。続いてJ. Wardらもそれを確認した(1972)。
図2 ポリオール経路
2. アルドース還元酵素阻害薬(ARI)の開発
 このようにポリオール経路が明らかにされると、次はこの経路の阻害薬を見出すことに目が向いた。1980年になると多くのARIが開発され、わが国でもその治験が行われた。Ayerst社のAlrestatin、Tolrestat、ICI社のStatil、ファイザー社のSorbinilなどであるが、いずれも皮疹などの副作用が強く、わが国では治験が中止された。糖尿病ラットに対する効果は確実であったので、重症の副作用のないARIを探すことが行われた。
 小野薬品工業ではEpalrestatを開発し筆者はそれが臨床で使用できるかについて第2相試験を依頼された。当時は糖尿病性神経障害の診断は、神経障害の症状があり、原因と思われる疾病が糖尿病以外にないこと、あるいは原因として糖尿病がもっとも妥当なことが診断の根拠となった。神経伝導速度の測定や、振動覚閾値の測定などについては標準化がなされておらず、各クリニックのやり方で行われていたという状況であった。
 Epalrestatの第2相試験は1982年2月より83年5月まで行われた。参加施設は10施設で、知覚障害や自発痛などの末梢神経障害の症状が認められ、かつ血糖コントロールが安定している152例で67例に1日300mg、85例に600mgを2週間、4週間投与し、その有効性、副作用を比較した。その結果Epalrestat大量群に有効性が高く、自覚症状の改善が認められた。次に用量を少なくしメコラバミンを対照として比較試験が行われ150mg/日でも有効であることが認められた。
 1984年の11月27日から12月2日までホノルルで米日アルドース還元酵素ワークショップがKinoshita博士の共同研究者のKador. PF博士の世話で開催され出席した。当時、小野薬品工業ではEpalrestatの治験中で槇田氏も出席していた。Epalrestatが薬となるのかと心配しながらホノルルの浜辺を眺めていたのを思い出す。
3. ARIの治験
 Epalrestatの第3相試験は1987年10月より89年3月まで行われた。メコラバミンとの比較試験で150mg/日でも有効性が認められたので、毎食前50mgを1日3回服用するA群と実薬群は尿が黄色となるので、ブラセボを対照とすることができず、Epalrestat 3mgを含む錠剤を1日3回服用するものをP群とした。12週間服用し、自覚症状(自発痛、しびれ感、感覚麻痺、冷感)を投与前、2、4、8、12週後に100mmのアナログスケールを用い、主治医が任意の場所に印を記入する方法が用いられた。
 自覚症状の改善はA群47%、P群27%で、A群が有意に優れていた。神経伝導速度はA群では腓骨神経(MCV)、正中神経(MCV、SCV)とも投与前に比べ投与後は有意に伝導速度が増加した(P<0.05)。振動覚閾値にも両群間に有意の差が認められた。自律神経機能 CVR-R ではA群24%、P群13%の改善率(P<0.1)、また薬剤投与前2.5%以下の症例でみるとA群32%、P群11%(P<0.01)の改善率であった。全般改善度はA群46%、P群28%(P<0.05)でA群が優れていた。安全度はA群94%、B群96%で差はみられなかった。全般改善度および安全度を総合した有用度はA群49%、P群33%でA群が優れていた(P<0.01)。
表 血糖コントロールの良否別に比較したエバルレスタット(キネダック)の
臨床効果(二重盲検試験成績)
評価項目全症例HbA1c 7.0%未満HbA1c 7.0%以上
例数改善例例数改善例例数改善例
自覚症状改善度A924347**291138512855**
P932527311032561425
神経機能改善度A89293326415512243*
P90222430930551222
全般改善度A894146*26831513059**
P902528301033551425
有用度A894449*261038513161**
P903033301240551629
A:エバルレスタット群  P:ブラセボ群  **P<0.001  *P<0.05
 このようにしてEpalrestatは薬剤として臨床に用いられることになった(医学のあゆみ、152、No6、405-416、1990)。
 当時は明確なエンドポイントが示されなくともよい時代だったので、Epalrestatはキネダックとして市販された。なによりも皮疹をはじめ重篤な合併症が起こらなかったのがよかった。
バックナンバー
01 40分かかって血糖値がでた
02 診断基準がないのに診断していた
03 輸入が途絶えて魚インスリンが製品化
04 糖尿病の研究をはじめる
05 問題は解けた
06 連理草から糖尿病の錠剤ができた
07 WHOの問合わせで集団検診開始、GTTでインスリン治療予知を研究
08 インスリン治療で眼底出血が起こった
09 日本糖尿病学会が設立
そこでPGTTを発表
10 糖尿病の病態を探る
11 経口血糖降下薬時代の幕開け
12 分院の任期を終えて米国へ
13 米国での研究
14 2年目のアメリカ生活
15 食品交換表はこうしてできた
16 日本糖尿病協会の出発
17 糖尿病小児の苦難の道
18 子どもは産めないと言われた
19 発病する前に異常はないか
20 前糖尿病期に現れる異常
21 栄養素のベストの割合
22 ステロイド糖尿病
23 網膜脂血症
24 腎症と肝性糖尿病
25 糖尿病者への糖質輸液
26 糖尿病と肥満
27 血糖簡易測定器が作られた
28 糖尿病外来がふえる
29 神経障害に驚く
30 低血糖をよく知っておこう
31 血糖の日内変動とM値
32 血糖不安定指数
33 神経障害のビタミン治療
34 糖尿病になる動物を作ろう
35 糖尿病ラットができた:無から有が出た
36 国際会議の開催
37 IAPで糖尿病はなおらないか
38 日本糖尿病学会を弘前で開催
39 糖尿病のnatural history
40 薬で糖尿病を予防できる
41 若い人達の糖尿
42 日本糖尿病協会が20周年を迎える
43 糖尿病の増減
44 自律神経障害 (1)
45 自律神経障害 (2)
46 自律神経障害 (3)
47 自律神経障害 (4) 排尿障害
48 自律神経障害 (5)
49 瞳孔反射と血小板機能
50 合併症の全国調査
51 炭水化物消化阻害薬
52 アルドース還元酵素阻害薬
53 神経障害治療薬の開発
54 人間ドックと糖尿病
55 糖尿病検診と予防
56 中国医学と糖尿病
57 日本糖尿病協会の発展
58 学会賞
59 糖尿病の病期
60 食事療法から夢の実現へ
61 インスリン治療と注射量
62 インスリン治療と低血糖