〔このコーナーは医療スタッフ対象です〕 ドクター訪問 こう使う! グリコアルブミン検査の活用例

 ここでは、グリコアルブミン検査を導入して質の高い糖尿病診療を実践している実地医家を訪問し、その活用法をおたずねしていきます。


第1回野木病院 内科富永 真琴 先生
click here「グリコアルブミン検査で医療の質・安全性と患者さんの安心感が増します」

第2回那珂記念クリニック遅野井 健 先生
Watching「安全、安心のためにすべての患者さんのHbA1CとGAを測定しています」

第3回船山内科船山 秀昭 先生
click here「新患でインクレチン関連薬を処方する場合は、GAを必ず測定しています」


第2回 那珂記念クリニック 院長 遅野井 健 先生

「安全、安心のためにすべての患者さんのHbA1CとGAを測定」
 茨城県の県都・水戸市の隣、那珂市で透析施設や運動療法施設などを展開している医療法人健清会。グループ全体で継続管理している糖尿病の患者数は約4,000人と全国でもトップレベル。理事長でグループの中核施設である那珂記念クリニック院長、遅野井健先生(糖尿病専門医)に糖尿病診療におけるグリコアルブミン(GA)検査の活用方法を伺った。

どんなときにGAをオーダーしますか?

 血糖値とHbA1Cに乖離がみられるときや血糖が改善または悪化過程にありダイナミックに変化しているときにグリコアルブミン(GA)を測定します――という答えが最も教科書的で“格好いい”言い方かもしれません。しかし実は、糖尿病の患者さん全症例でHbA1CとGAを同時測定しています。

全症例でHbA1CとGAを同時に測るのは、どういった理由で?

 血糖とHbA1Cが乖離した場合に、HbA1Cのみの測定では、理論上想定される範囲内でHbA1Cが異常値を示しているのか、また、一見正常にみえているのに実は血糖管理不良であるのかといったことを、すべて予測できるとは限らないからです。そのため、GAを測定する前から測定対象の患者さんを絞り込んでしまうと、困ることが出てきます。

血糖管理不良の状態をずっと見逃してしまうことがあると?

 はい。永久に見逃してしまう可能性があります。

 血糖とHbA1Cが乖離する原因は、異常ヘモグロビン血症とか溶血性貧血とかいろいろわかっていますが、実際には「理由がよくわからないけれども乖離している」というケースが少なくありません(コラム1 参照)。

 患者さんに血糖自己測定(SMBG)をしてもらって記入してくる数字とHbA1Cがどうも合わない。うそを書いているのではないかと思ってGAを測る。するとSMBGの結果が本当であったことがわかるということが、同時測定を始める前によくありました。

 そういう症例に絞ってGAを測ればよいという意見もあるかもしれません。しかし、SMBGをしていない患者さんでは、疑いをもちようがないのですから、乖離している可能性自体に気付きません。そこで、「よくわからないから、全例両方測ってしまおう」ということです。

初診の患者さんだけ両方測るのでしょうか?

 いいえ。診察のたびに、毎回測っています。

毎回測定する意義はどういったことでしょうか?

 ひとことで言えば、「安心感」を得るためです。

 例えば、血糖とHbA1Cがワンポイントで乖離していても「まあ、たまたまだろう」と思ってしまいますが、ある程度、長い期間、測定値が継続的に乖離していれば「おかしい」とは思いますよね。同様に、HbA1CとGAを毎回、同時測定しているからこそ、乖離する頻度が多いことがわかり、両指標の推移を知ることで安心感を持って診療を続けることができるわけです。

HbA1Cが良いのに合併症が起きてしまうこともあるそうですが、そういった患者さんはGAが高い可能性もあり得ますか?

 あると思います。

 実際に私もHbA1C・GA同時測定を始める前に、そういう経験をしていますので、典型的な例を紹介いたします。

 その患者さんは、HbA1C6%台前半で維持していて血圧も良いのに網膜症が出てきてしまいました。原因がわからず、GAを測ったところ30%ぐらいあって慌てました。一般に「HbA1C値の約3倍がGA値」とされていますから、理屈から言えばせいぜいGAは20%程度でないとおかしいわけです。

 HbA1Cが異常低値を示していることに長年気付かず、主治医として治療にあたっていたのです。この方の場合、それから徐々にコントロールを強化し、幸いに視機能にも事なきを得ました。現在はGAが20%前後、HbA1Cは4%台後半で安定しています。

この症例の詳しい経過はこちら

 

そういったお話を伺うと、GAを測らずにHbA1Cだけで治療にあたるのは怖いことのように感じますね。

 本当にそう思います。

 むしろ、GAのほうがHbA1Cよりも実際の臨床像からの乖離が少ないように感じます。貧血の影響などもないですし、注意が必要なのはアルブミン代謝が亢進する特殊な病態だけですから。

 私がHbA1C・GA同時測定をするようになったのは、実は2003年ごろにGAの試薬メーカーの旭化成ファーマからの話があり、試験的に導入したことがきっかけです。しばらくたつと試験期間は終了したのですが、そのときには「もう怖くて止められない」という感じで、以来ずっと続けているのです。

HbA1C・GA同時測定を長く続けられていて、両者が乖離するというケースはどの程度の頻度で起きているのでしょうか?

 2007年の糖尿病学会に発表したデータがあります。

 HbA1CとGAの相関の回帰式を求め、それによって計算される理論値の±20%以上乖離した例が全体の10%強に及びました。とくに、貧血や低蛋白血症、腎障害、肝障害といった合併症・併発症がある患者さんや、血糖の日内変動が激しいと考えられるインスリン治療例、1型糖尿病で乖離率が高いことを報告しました。血糖の日内変動が激しいとGA/HbA1C比が高くなります。つまり、実際の血糖状態よりHbA1Cが低く出ます。

HbA1CとGAの乖離について(コラム 1)

 

日内変動をみる指標としては、1,5-AGやSMBGも良いのではないかと思いますが?

 食後血糖をみる指標としては1,5-AGも悪くないのですが、私はアカルボースを処方することが多いため、1,5-AGは使っていません。なぜかと言うと、アカルボースを使うと1,5-AGが逆に動き、異常低値になることを私はいち早く見い出して報告したからです。このことはその後、他施設でも追試されて確認されています。

 SMBGは血糖コントロールを‘改善’するためのツールとしては優れていて、当院でも多く導入しています。しかし測定したポイントでしかわからないので、血糖コントロールを‘評価’する指標としては、やはり、GAなりHbA1Cなり一定期間の血糖状態を反映する検査値のほうが評価しやすいと思います。

HbA1C・GA同時測定をされている理由とメリットはよくわかりました。ところで、保険診療で同時測定されているのでしょうか?

 当然、同時測定したからといって、すべての患者さんについて保険請求できるわけではありませんが、経口薬やインスリンを使い始めて6カ月以内などは、同月内でも算定できますから、もちろん当院でも保険請求できるケースはそうしています。それ以外のケースは血糖とHbA1Cを請求しています。

血糖管理指標の診療報酬について(コラム 2)

 

GAについて、患者さんへの指導という面でなにか工夫をされていますか?

  治療経過を記入するための当院オリジナル『糖尿病カード』(図5)を作成し、患者さんに無料で配布しています。糖尿病協会の『糖尿病療養手帳』よりも小さくカードサイズにしたのが特徴です。みなさん財布やカードケースに入れてくださいますから、通院時に忘れる方はいません。

 その『糖尿病カード』のHbA1Cの欄の隣は空欄にしてあり、それぞれの患者さんにとって、大切な検査値を記入できるようにしてあります。多くの患者さんには、そこにGA値を記入していただいています。

オリジナル『糖尿病カード』(図5)

 

GA普及に必要なことはなんでしょうか?

 GAに血糖変動が素早くわかるなどの利点があることは疑いないことですが、HbA1Cと比較してエビデンスがまだ不足しています。しかし、HbA1Cが普及し、エビデンスが蓄積されるのにも相当な時間かかったわけで、GAについても、臨床医が少しずつエビデンスを築きあげ、HbA1Cから移し変えていく必要があるのではないかと思います。

最後に、GA未導入のドクターへメッセージを。

 

 現状において少なくとも、血糖値とHbA1Cが乖離している症例、例えば異常ヘモグロビン血症や透析、貧血などの症例や、HbA1Cで臨床経過が説明できない症例では、是非ともGAを測っていただかないといけないと思います。HbA1CとGAを同時測定して、安心感をもってクオリティーの高い診療を続けることが大切だと思います。

(取材日:2009年10月2日)


●まとめ
GA検査の導入時期は――
 
2003年ごろから
どんなときにGAを測るか――
 
すべての糖尿病患者さんにおいて、通院の都度、HbA1Cと同時測定する
全例でHbA1C・GA同時測定をするメリットは?――
 
HbA1Cが異常値を示す場合も多く、同時測定することでより正確に血糖状態を把握でき、
GA値なしでは安心できない
保険請求は――
 
月2回の算定が認められているケースでは、両方請求する
それ以外では、血糖とHbA1Cを請求する


●取材を終えて ――
 大病院は急性期医療に重点を置いた体制にシフトし、効率を追求せざるを得ない社会環境のなか、慢性疾患を診るために総合病院のクオリティーをもったクリニックで患者さん中心の医療を提供したい、との思いから開業されたという遅野井先生。現在、那珂市に限らず水戸市や日立市からも患者さんが訪れるとのこと。約4,000人というその数は、開業の理念が実現したことの表れのようです。インタビューの終りに口にされた「糖尿病については、ここが近隣医療圏で最後の砦。だから間違った診断をするわけにいかない」との自負が、HbA1C・GA同時測定を続ける最大の理由なのかもしれません。


※2012年4月からヘモグロビンA1c(HbA1c)は以前の「JDS値」に0.4を足した「NGSP値」で表わされるようになりました。過去のコンテンツの一部にはこの変更に未対応の部分があります。