〔このコーナーは医療スタッフ対象です〕
グリコアルブミン・トピックス - dpp-4阻害薬とグリコアルブミン


破線 『DPP-4阻害薬処方時のグリコアルブミン検査活用例』

目次


§1 DPP-4阻害薬処方時の
   グリコアルブミン検査のメリット
 経口血糖降下薬として6番目のカテゴリーとなる DPP-4阻害薬が登場しました。既存の血糖降下薬にない多面的な作用を持ち、糖尿病治療にパラダイムシフトを起こすのではないかと期待されています。
 このように糖尿病の治療薬が進歩し続けている一方で、その効果の確認手法については、HbA1c以外の血糖コントロール指標は広く用いられるに至っていません。HbA1cは過去1〜2カ月という長期間の血糖状態を把握できる点で便利ですが、最近、処方を開始(または変更)した症例における短期間の血糖変動を把握するには不向きです。
 その点、グリコアルブミン(GA)検査は、直近2週間の血糖状態を反映しやすく、薬剤の開始や追加・変更の効果をより早く把握できるというメリットがあります。
 DPP-4阻害薬処方時にGAを用いて血糖管理することの有用性を以下にまとめます。

DPP-4阻害薬×GAの利点 (1) 処方開始2週間で効果(有効・無効)を判定しやすい
 DPP-4阻害薬にも有効例や無効例が存在します。無効であれば、早急に薬剤の変更を検討することも必要ですので、できるだけ早くに有効・無効を見分けたいものです。HbA1cでは通常その判定に数カ月かかりますが、GAなら DPP-4阻害薬の処方を開始して次に来院していただく2週間後には顕著に改善していた例が見受けられ、その時点で有効と判断できます。この場合、絶対値の変動幅の大きさもGA測定のメリットに挙げられます。HbA1cのわずかな変動は、改善効果なのか、単なる測定誤差なのか、判別できない場合があります。

DPP-4阻害薬×GAの利点 (2) 新薬発売後の最大14日処方にマッチする
 新薬発売後1年間は処方が最大14日分までに限られていますが、この14日間という長さは、GAが過去の血糖状態を反映している期間とだいたい一致します。そのため新規糖尿病薬の処方時にはGAを指標に用いるメリットがより活かせると言えます。
 なお、2型糖尿病患者さんに血糖管理マーカーを月2回、保険請求できるのは「経口血糖降下薬の投与を開始して6カ月以内の患者、インスリン治療を開始して6カ月以内の患者等」となっています。新患であればこの条件にあてはまるので、HbA1c・GA双方、もしくはGA単独月2回を算定できます。こうした指標の特徴を上手に利用して、患者さんの血糖管理に活用していきたいものです。

血糖管理指標の保険請求について

DPP-4阻害薬×GAの利点 (3) 低血糖予防のためのSU薬の調整に有用?
 DPP-4阻害薬は血糖依存性にインスリン分泌を促進するので、低血糖は起こりにくいだろうと期待されていました。実際に単独投与では少ないようですが、特にSU薬との併用では低血糖が少なくないことがわかってきました。SU薬の高用量例や高齢者などの低血糖事例が複数報告されています。
 そのため、SU薬に上乗せするときは、いったんその処方量を減らし、血糖の経過を注意深く観察する必要があります。血糖コントロールが乱れやすくなりますので、血糖変動を鋭敏に反映するGAがより有用と考えられます。

§2 グリコアルブミン検査による
    DPP-4阻害薬の評価事例
 ここからは、DPP-4阻害薬の処方にあたりGAで管理している当院の症例を紹介します。

多くの症例では投与開始2週後に効果を確認できる
 図1
図1 5例の平均値の推移
 
は DPP-4阻害薬であるシタグリプチン投与開始後、16週間経過した5例の患者さんの HbA1c(JDS値。以下同)とGAの平均値の推移を表しています。HbA1cは16週間かけて7.8%から7.4%までゆっくりと改善していますが、GAは2週目で22.5%から20.8%まですばやく低下しており、HbA1cよりも早期から DPP-4阻害薬の効果が確認できました。
図2 著効例
 
 とくにシタグリプチンが著効を示した症例を提示します(図2)。62歳の男性で BMI は22.8、当院で初めて糖尿病治療を開始した新患で、シタグリプチン50mg/日のみを投与しました。投与前の HbA1cが12.4%、随時血糖値は282mg/dLと非常に高く、単剤でコントロールできるかどうか不安がありましたが、GAは2週後には42.8%から36.4%まで大きく改善しており、血糖値も161mg/dLと低下していました。「しばらく単剤で経過を見てみよう」と考えて、単剤のまま12週間経過した時点で、ほぼ満足できるレベルに達しました。HbA1cだけを見ていたとしたら、他剤を併用していたかもしれません。
「無効例」の早期発見に有用?
 DPP-4阻害薬が
図3 不変例
 
効を奏さない症例も存在します。図3は76歳女性、BMI 21.3の方です。以前よりグリメピリド2mgを服用していて、朝食前の血糖値は106mg/dLと良いのですが、HbA1cが7.8%と高値で、低血糖を起こさないで、より HbA1cが改善するようにと主治医がシタグリプチン50mg/日を追加しました。しかし処方12週後でも朝食後の血糖値は200mg/dLを超えており、HbA1cは8.1%と、むしろ上昇してしまいました。この症例ではGAは17.4(開始時)から17.8(2週目)、そして18.8(4週目)と上昇しており、その時点で無効と判断することもできたかもしれません。しかし HbA1cのみを測定していた場合、2〜3カ月経過しないと判定できなかったと思われます。
効果発現が緩やかなケースや、リバウンドするケースもある
 図3
図4 遅効例
 
で示したように、DPP-4阻害薬が無効であることを短期間で判断するうえでGAが役立ちますが、早急な判断には注意を促すような症例もみられました。
 図4は49歳女性、BMI は30.2と肥満の症例です。グリベンクラミド10mg/日、ミグリトール150mg/日、ピオグリタゾン30mg/日と、3剤をほぼ最高用量で服用しているにもかかわらず、HbA1cは16.4%、GAは65.3%と非常に悪いコントロールでした。インスリン治療の適応ですが、どうしても「注射はイヤ」で、「新しい薬を試してから」という強い希望に応えるかたちで主治医がシタグリプチン50mg/日を追加しました。
 GAは2週目では65.6%と変わらず、4週目に63.7%とわずかに低下しましたが、患者さんの強い要望で8週目まで猶予したところ、GAが40.5%まで改善しました。遅れて効果を表した原因は不明ですが、食事療法や服薬遵守度など、薬だけではない患者さんの側の要素も大きく影響しているのではないかと推測されます。
図5 リバウンド例
 
 このほか図5のように、シタグリプチンでいったん血糖コントロールが改善したのにもかかわらず、数週間後に再び悪化してしまった症例もあります。やや特殊な例かもしれませんが、改善に気をよくして食事療法がおろそかにならないよう、注意するべきでしょう。そのような場合にもGAを指標とした経過観察により、血糖コントロールの改善や悪化をすばやく把握することができます。
HbA1cとGAのわずかな乖離が意味するものは?
 GAの数値はおおよそ HbA1cの3倍であることがわかっています。5人の患者さんのグラフでも、治療開始時には、ほぼその関係が保たれていました。治療を開始してGAがすばやく変化すると、いったんその関係が崩れることになります。そして、HbA1cがゆっくりとGAを追って低下し、コントロールが安定した時点でまた元の関係が成り立つことが予想されます。現在のところ、この5人の患者さんではHbA1cに比べてGAの低下がやや大きいように見受けられます。
 GAと HbA1cの値が乖離する原因は種々知られていますが、その一つにGAがより食後高血糖に敏感に反応するのではないかという仮説があります。DPP-4阻害薬では、食後高血糖の改善効果も期待されており、詳細に検討してみる必要がありそうです。

§3 DPP-4阻害薬と
    グリコアルブミン検査の可能性
 DPP-4阻害薬は今までにない作用を持ち、2型糖尿病の血糖コントロールに有用な薬剤だと思われます。ただ、現時点では、やや期待が先行して評価されている部分があることも否定できません。新薬である以上、まず安全性を確保したうえで効果を検討していかなければなりません。
 体重が増えないことが特徴とされていますが、実際には血糖改善に伴い、わずかながら体重が増加する症例がみられます。薬物療法の前提として、当然のことですが、食事・運動療法が基本であることは、従来となんら変わりありません。このような基本を再確認しながら、安全性に留意したうえで、この新薬を上手に育てていきたいと思います。
 DPP-4阻害薬の効果の確認については、本稿で記したように、GAの特徴が活かされるケースが多く見られ、有用性が再確認できました。現在は、まだ一部のDPP-4阻害薬にしか認められていませんが、α-グルコシダーゼ阻害薬との併用によって、積極的に食後高血糖を改善した場合、GAや HbA1cはどのように変動するのかなど、まだまだ検討項目は多くあります。
 薬剤の進歩に歩調をあわせ、血糖管理指標も適切に臨床に活かしていくことで、糖尿病の治療がまた一歩前進してゆくのではないかと思われます。

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※2012年4月からヘモグロビンA1c(HbA1c)は以前の「JDS値」に0.4を足した「NGSP値」で表わされるようになりました。過去のコンテンツの一部にはこの変更に未対応の部分があります。