〔このコーナーは医療スタッフ対象です〕
循環器ドクターのためのグリコアルブミン(GA)活用法

田中 逸 先生
(聖マリアンナ医科大学 代謝・内分泌内科 教授)


目次


5. 血糖変動への介入の実際とGAの可能性
 以上のように、細小血管症の抑制における血糖管理のエビデンスに比較するとまだ‘証拠不十分’ながらも、動脈硬化の進展抑制に、平均血糖を下げること、プラス、食後高血糖の抑制と低血糖を極力避けること、つまり血糖変動をできるだけ平坦化することで大血管症を抑制し得るとのコンセンサスが形成されつつあります。

 そこで、血糖変動平坦化を目的とする介入法と、その指標としてのGAの可能性について触れてみます。

血糖変動を平坦化する方法
食べる順序などへの配慮

 血糖変動を平坦化する方法として、食事のとり方に配慮する方法があります。その一つに、単純糖質をなるべく複合糖質に変える方法があります。ただし、この工夫ができるのは家庭内で食事を調理する時に限られます。

 食事の最初に食物繊維(具体的には野菜や海藻など)を食べることも、食後の血糖上昇の抑制に効果的です。また、同じ食事でもよく噛んで食べると食後の血糖やTGの上昇が抑制されます。このような工夫は外食や中食にも応用できます。

α-グルコシダーゼ阻害剤の利用

 α-グルコシダーゼ阻害剤(α-GI)については、アカルボースを用いて行われたSTOP-NIDDMで、耐糖能障害から糖尿病への進展とともに心血管イベントの発生を対プラセボ比で有意に抑制したことが特筆されます17)。また、糖質の消化吸収スピードを抑えるというα-GIの作用は、食間の低血糖を抑制することにつながります18)。近年、低血糖時の交感神経亢進等が心血管イベントのトリガーであることが解明されつつあり19)、α-GIによる血糖変動の平坦化は心血管イベント抑制にとって理想的な作用と言えます。
 なお、α-GIの糖質分解抑制作用に伴い、短鎖脂肪酸の組成の変化や、腸管内発生ガスの増加により、これが抗動脈硬化作用を発揮している可能性が最近報告されています。

日常臨床でのGAの使い方
細小血管症の予測マーカーとしての有用性

 本稿では動脈硬化性疾患とGAの関係を中心に述べていますが、GAは細小血管症との相関も良好で、多数報告されています。

 例えば、糖尿病大規模臨床試験といえばDCCTが有名ですが、最近、そのDCCTの凍結保存検体を用い、GAを測定した再解析が行われました。その結果、GAと網膜症や腎症との相関はHbA1cと同等であることが確認されています20)

 また、米国の一般市民1万人以上を長期間追跡しているARICスタディからも、最近、20年間の観察期間中に発症した糖尿病および網膜症やCKDと血糖関連指標との関係が報告され、GAはHbA1cと同等のリスク予測能があることが示されました21)

 なお、血糖値とHbA1cの乖離が大きくなる血液透析症例や妊婦では、日本透析医学会22)、日本糖尿病・妊娠学会23)がそれぞれ、GAを用いて管理することを推奨しています(HbA1cは参考程度とする)。

GAとHbA1cの乖離から得られる情報

 血糖が安定している状態では、通常、GAはHbA1c(JDS)のおよそ3倍の値をとります24)。逆に言えば、この比率が3:1から掛け離れているときは、その原因を考慮する必要があります25)

 血糖が大きく変動している状態、例えば治療強化後は、初めにGAが低くなるためにHbA1cの3倍値に比べて低めの値をとります。一方、コントロール悪化時には、GAが先に上昇しHbA1cの3倍値より高めの値をとります26)

 そのほか、GAがHbA1cより相対的に高くなる例として、食後高血糖の存在、肝硬変、るい痩、溶血性貧血、腎性貧血などがあります。反対にGAがHbA1cより相対的に低くなる例として、食後高血糖の改善、妊娠後期の鉄欠乏性貧血、高度肥満などがあります27)

 GAとHbA1cが異常に乖離する場合には、これらの病態および表1に示すHbA1cが平均血糖と乖離する病態や、アルブミン代謝の影響を受ける病態を疑うことが必要とされます。

表1 HbA1c値と平均血糖値の間に乖離があるとき
HbA1c値が高め HbA1c値が低め どちらにもなり得るもの
 急速に改善した糖尿病
 鉄欠乏状態
 急激に発症・増悪した糖尿病
 鉄欠乏性貧血の回復期
 溶血(赤血球寿命↓)
 失血後(赤血球生成↑)、 輸血後
 エリスロポエチンで治療中の腎性貧血
 肝硬変
 異常ヘモグロビン症
〔日本糖尿病学会編・著:糖尿病治療ガイド 2014-2015, P9, 文光堂, 2014より引用〕

直接的な血管障害作用の仮説〜AGEs前駆物質としてのGA〜

 GAはAGEs(終末糖化産物)の前駆物質です。糖尿病合併症の発症・進展にAGEsが関与し、GAが単なる‘血糖管理指標’ではなく、低値に維持しておくべき‘治療ターゲット’であることを示した研究も増えてきています。例えば、GAが活性酸素の発生源であること、GAは血管内皮細胞に捕捉されやすいこと、血管平滑筋細胞数を増加させることなどの報告があります。28)
        17)Chiasson JL,et al., JAMA 290, 2003
        18)高田康徳ら, 月刊糖尿病, 1(2), 2009
        19)Wright RJ et al., Diabetes Metab Res Rev 24, 2008
        20)DM Nathan et al., Diabetes 63, 2014
        21)Selvin E et al., Lancet Diabetes Endocrinol 2(4), 2014
        22)血液透析患者の糖尿病治療ガイド2012 透析会誌46, 2013
        23)グリコアルブミンに関する検討委員会報告 糖尿病と妊娠10, 2010
        24)Takahashi S et al., Endocr J 54, 2007
        25)Koga et al., CCA 433, 2014
        26)Murai J et al., Endocr J 60, 2013
        27)Koga et al., CCA 433, 2014
        28)KJ Kim et al., Diabetes Metab J 36, 2012

次は ▶ ▶ 6. おわりに

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※2012年4月からヘモグロビンA1c(HbA1c)は以前の「JDS値」に0.4を足した「NGSP値」で表わされるようになりました。過去のコンテンツの一部にはこの変更に未対応の部分があります。