2012年2月アーカイブ

血糖管理指標の診療報酬について

 
診療報酬一覧表


 

〔このコーナーは医療スタッフ対象です〕
グリコアルブミン・トピックス - dpp-4阻害薬とグリコアルブミン


破線 『DPP-4阻害薬処方時のグリコアルブミン検査活用例』

目次


§1 DPP-4阻害薬処方時の
   グリコアルブミン検査のメリット
 経口血糖降下薬として6番目のカテゴリーとなる DPP-4阻害薬が登場しました。既存の血糖降下薬にない多面的な作用を持ち、糖尿病治療にパラダイムシフトを起こすのではないかと期待されています。
 このように糖尿病の治療薬が進歩し続けている一方で、その効果の確認手法については、HbA1c以外の血糖コントロール指標は広く用いられるに至っていません。HbA1cは過去1〜2カ月という長期間の血糖状態を把握できる点で便利ですが、最近、処方を開始(または変更)した症例における短期間の血糖変動を把握するには不向きです。
 その点、グリコアルブミン(GA)検査は、直近2週間の血糖状態を反映しやすく、薬剤の開始や追加・変更の効果をより早く把握できるというメリットがあります。
 DPP-4阻害薬処方時にGAを用いて血糖管理することの有用性を以下にまとめます。

DPP-4阻害薬×GAの利点 (1) 処方開始2週間で効果(有効・無効)を判定しやすい
 DPP-4阻害薬にも有効例や無効例が存在します。無効であれば、早急に薬剤の変更を検討することも必要ですので、できるだけ早くに有効・無効を見分けたいものです。HbA1cでは通常その判定に数カ月かかりますが、GAなら DPP-4阻害薬の処方を開始して次に来院していただく2週間後には顕著に改善していた例が見受けられ、その時点で有効と判断できます。この場合、絶対値の変動幅の大きさもGA測定のメリットに挙げられます。HbA1cのわずかな変動は、改善効果なのか、単なる測定誤差なのか、判別できない場合があります。

DPP-4阻害薬×GAの利点 (2) 新薬発売後の最大14日処方にマッチする
 新薬発売後1年間は処方が最大14日分までに限られていますが、この14日間という長さは、GAが過去の血糖状態を反映している期間とだいたい一致します。そのため新規糖尿病薬の処方時にはGAを指標に用いるメリットがより活かせると言えます。
 なお、2型糖尿病患者さんに血糖管理マーカーを月2回、保険請求できるのは「経口血糖降下薬の投与を開始して6カ月以内の患者、インスリン治療を開始して6カ月以内の患者等」となっています。新患であればこの条件にあてはまるので、HbA1c・GA双方、もしくはGA単独月2回を算定できます。こうした指標の特徴を上手に利用して、患者さんの血糖管理に活用していきたいものです。

血糖管理指標の保険請求について

DPP-4阻害薬×GAの利点 (3) 低血糖予防のためのSU薬の調整に有用?
 DPP-4阻害薬は血糖依存性にインスリン分泌を促進するので、低血糖は起こりにくいだろうと期待されていました。実際に単独投与では少ないようですが、特にSU薬との併用では低血糖が少なくないことがわかってきました。SU薬の高用量例や高齢者などの低血糖事例が複数報告されています。
 そのため、SU薬に上乗せするときは、いったんその処方量を減らし、血糖の経過を注意深く観察する必要があります。血糖コントロールが乱れやすくなりますので、血糖変動を鋭敏に反映するGAがより有用と考えられます。

§2 グリコアルブミン検査による
    DPP-4阻害薬の評価事例
 ここからは、DPP-4阻害薬の処方にあたりGAで管理している当院の症例を紹介します。

多くの症例では投与開始2週後に効果を確認できる
 図1
図1 5例の平均値の推移
 
は DPP-4阻害薬であるシタグリプチン投与開始後、16週間経過した5例の患者さんの HbA1c(JDS値。以下同)とGAの平均値の推移を表しています。HbA1cは16週間かけて7.8%から7.4%までゆっくりと改善していますが、GAは2週目で22.5%から20.8%まですばやく低下しており、HbA1cよりも早期から DPP-4阻害薬の効果が確認できました。
図2 著効例
 
 とくにシタグリプチンが著効を示した症例を提示します(図2)。62歳の男性で BMI は22.8、当院で初めて糖尿病治療を開始した新患で、シタグリプチン50mg/日のみを投与しました。投与前の HbA1cが12.4%、随時血糖値は282mg/dLと非常に高く、単剤でコントロールできるかどうか不安がありましたが、GAは2週後には42.8%から36.4%まで大きく改善しており、血糖値も161mg/dLと低下していました。「しばらく単剤で経過を見てみよう」と考えて、単剤のまま12週間経過した時点で、ほぼ満足できるレベルに達しました。HbA1cだけを見ていたとしたら、他剤を併用していたかもしれません。
「無効例」の早期発見に有用?
 DPP-4阻害薬が
図3 不変例
 
効を奏さない症例も存在します。図3は76歳女性、BMI 21.3の方です。以前よりグリメピリド2mgを服用していて、朝食前の血糖値は106mg/dLと良いのですが、HbA1cが7.8%と高値で、低血糖を起こさないで、より HbA1cが改善するようにと主治医がシタグリプチン50mg/日を追加しました。しかし処方12週後でも朝食後の血糖値は200mg/dLを超えており、HbA1cは8.1%と、むしろ上昇してしまいました。この症例ではGAは17.4(開始時)から17.8(2週目)、そして18.8(4週目)と上昇しており、その時点で無効と判断することもできたかもしれません。しかし HbA1cのみを測定していた場合、2〜3カ月経過しないと判定できなかったと思われます。
効果発現が緩やかなケースや、リバウンドするケースもある
 図3
図4 遅効例
 
で示したように、DPP-4阻害薬が無効であることを短期間で判断するうえでGAが役立ちますが、早急な判断には注意を促すような症例もみられました。
 図4は49歳女性、BMI は30.2と肥満の症例です。グリベンクラミド10mg/日、ミグリトール150mg/日、ピオグリタゾン30mg/日と、3剤をほぼ最高用量で服用しているにもかかわらず、HbA1cは16.4%、GAは65.3%と非常に悪いコントロールでした。インスリン治療の適応ですが、どうしても「注射はイヤ」で、「新しい薬を試してから」という強い希望に応えるかたちで主治医がシタグリプチン50mg/日を追加しました。
 GAは2週目では65.6%と変わらず、4週目に63.7%とわずかに低下しましたが、患者さんの強い要望で8週目まで猶予したところ、GAが40.5%まで改善しました。遅れて効果を表した原因は不明ですが、食事療法や服薬遵守度など、薬だけではない患者さんの側の要素も大きく影響しているのではないかと推測されます。
図5 リバウンド例
 
 このほか図5のように、シタグリプチンでいったん血糖コントロールが改善したのにもかかわらず、数週間後に再び悪化してしまった症例もあります。やや特殊な例かもしれませんが、改善に気をよくして食事療法がおろそかにならないよう、注意するべきでしょう。そのような場合にもGAを指標とした経過観察により、血糖コントロールの改善や悪化をすばやく把握することができます。
HbA1cとGAのわずかな乖離が意味するものは?
 GAの数値はおおよそ HbA1cの3倍であることがわかっています。5人の患者さんのグラフでも、治療開始時には、ほぼその関係が保たれていました。治療を開始してGAがすばやく変化すると、いったんその関係が崩れることになります。そして、HbA1cがゆっくりとGAを追って低下し、コントロールが安定した時点でまた元の関係が成り立つことが予想されます。現在のところ、この5人の患者さんではHbA1cに比べてGAの低下がやや大きいように見受けられます。
 GAと HbA1cの値が乖離する原因は種々知られていますが、その一つにGAがより食後高血糖に敏感に反応するのではないかという仮説があります。DPP-4阻害薬では、食後高血糖の改善効果も期待されており、詳細に検討してみる必要がありそうです。

§3 DPP-4阻害薬と
    グリコアルブミン検査の可能性
 DPP-4阻害薬は今までにない作用を持ち、2型糖尿病の血糖コントロールに有用な薬剤だと思われます。ただ、現時点では、やや期待が先行して評価されている部分があることも否定できません。新薬である以上、まず安全性を確保したうえで効果を検討していかなければなりません。
 体重が増えないことが特徴とされていますが、実際には血糖改善に伴い、わずかながら体重が増加する症例がみられます。薬物療法の前提として、当然のことですが、食事・運動療法が基本であることは、従来となんら変わりありません。このような基本を再確認しながら、安全性に留意したうえで、この新薬を上手に育てていきたいと思います。
 DPP-4阻害薬の効果の確認については、本稿で記したように、GAの特徴が活かされるケースが多く見られ、有用性が再確認できました。現在は、まだ一部のDPP-4阻害薬にしか認められていませんが、α-グルコシダーゼ阻害薬との併用によって、積極的に食後高血糖を改善した場合、GAや HbA1cはどのように変動するのかなど、まだまだ検討項目は多くあります。
 薬剤の進歩に歩調をあわせ、血糖管理指標も適切に臨床に活かしていくことで、糖尿病の治療がまた一歩前進してゆくのではないかと思われます。


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グリコアルブミン・トピックス - dpp-4阻害薬とグリコアルブミン


破線 『糖尿病治療におけるdpp-4阻害薬の位置付け』

破線


§1 はじめに
 経口血糖降下薬として6番目のカテゴリーにあたるDPP-4阻害薬が2009年末からこれまでに3種・4製品、国内で発売され、開発の最終段階に差し掛かっているものも複数あります。DPP-4阻害薬とともに「インクレチン関連薬」と称されるGLP-1受容体作動薬も同様の状況で、しばらくはインクレチン関連薬の発売ラッシュが続きそうです。
 インクレチン関連薬について、その概要を簡単にまとめてみます。

インクレチンとDPP-4阻害薬
国内で販売・開発中の主なインクレチン関連薬
〔「糖尿病リソースガイド」(http://www.dm-rg.net/)より抜粋〕
(2010.8月現在)
 
 ブドウ糖を経口または経静脈的に投与すると、経口投与のほうがインスリンが数倍多く分泌されることから、消化管からインスリン分泌を促すホルモンが分泌されていると予測されていました。そのホルモンはインクレチンと名付けられ、それが小腸上部から分泌されるGIPと、小腸下部から分泌されるGLP-1であることがわかり、糖尿病治療への応用が図られてきました。
 製剤化へのハードルとなったのは、インクレチンの半減期がわずか数分であることでした。これに対し、GLP-1のアミノ酸配列を変更するなどの修飾により、半減期を延長したアナログ製剤「GLP-1受容体作動薬」と、GIP、GLP-1双方の分解酵素であるDPP-4を阻害する「DPP-4阻害薬」の開発が進められ、昨年末から相次いで国内で発売されるに至ったというわけです。
 なお、GIPとGLP-1では、後者がインスリン分泌促進のみならず、グルカゴン分泌抑制作用をもつこと、一方で前者には脂肪蓄積を増やす作用もあることなどから、GLP-1のほうが糖尿病治療により適していると考えられます。


§2 DPP-4阻害薬の血糖降下作用
 現在のところ、DPP-4阻害薬は経口薬で、GLP-1受容体作動薬は注射薬のみが製品化されています。本稿では、一般臨床により馴染みやすいDPP-4阻害薬を中心に話を進めていきます。

血糖依存性のインスリン分泌促進作用
 インクレチンの血糖降下作用は従来の血糖降下薬と異なり、血糖依存性であることが大きな特徴です。α-グルコシダーゼ阻害薬やグリニド薬といった食後高血糖改善薬は、食事のタイミングにあわせて服用しなければ効果がありませんが(グリニド薬では低血糖が起こり得る)、DPP-4阻害薬は1日1〜2回の服用で、高血糖時にのみインスリン分泌を刺激します。食間に血糖値が低下してくればインスリン分泌を刺激しなくなるので、本薬単剤なら低血糖は起こりにくいと考えられています。

グルカゴン分泌抑制
 また、グルカゴン分泌を抑制することも、従来の血糖降下薬にない作用です。これにより、より生理的に自然なかたちで血糖を下げることができます。DPP-4阻害薬が食後血糖だけでなく空腹時血糖も下げるのは、主に糖毒性解除とグルカゴン分泌抑制によるものと解されます。

インスリンの過剰分泌を来さずに血糖値を制御
 DPP-4阻害薬のインスリン分泌刺激作用には血糖応答性があることから、医原性の高インスリン血症になりにくいと言えます。血糖を下げるために体重が増え、それがさらなる血糖管理不良、大血管障害リスク増大につながるというジレンマから解放される期待がもてます。

§3 血糖降下以外の抗糖尿病作用
 インクレチン関連薬が注目される理由は、新しい作用既序で血糖を下げるというだけでなく、糖尿病治療に有用な多面的作用を有することです。

期待される膵β細胞保護・増殖作用
 最も期待を集めているのは、インクレチンの膵β細胞増殖促進作用です。これは従来の治療薬では全く期待できなかった作用です。ただ、この作用はいまだ動物実験レベルで認められたものであり、ヒトでもその効果を期待し得るか否かについては(とくにGLP-1受容体作動薬より作用が若干弱いDPP-4阻害薬では)、今しばらく検証が必要な段階です。
 しかし、これまでの治療薬が高血糖に対する対症療法「血糖降下薬」であったのに対して、インクレチン関連薬は原因療法「糖尿病治療薬」となり得る可能性を秘めています。

多彩な膵外作用も特徴
 さらに、インクレチン関連薬には糖尿病治療に有利な多彩な膵外作用があります。例えば、胃排出能や胃酸分泌の抑制は食後高血糖の緩和や食間の空腹感・低血糖惹起を抑止する方向に働きます。中枢に働きかけ食欲を抑制する作用もあります。肝臓や筋肉への糖取り込み促進作用は血糖上昇を抑制します。さらに、腎臓からのナトリウム排泄促進、虚血時の心筋・脳保護作用、骨代謝改善作用なども報告されています。
 ただし、これらは主にGLP-1受容体作動薬で確認されている作用であり、DPP-4阻害薬がこれらの作用を発揮するか否かについては、今後、より長期的な検討が必要です。

§4 いつ、どんな患者さんに用いるか
 SU薬には体重増加、チアゾリジン薬には浮腫や骨量減少、α-グルコシダーゼ阻害薬には腹部膨満・放屁、BG薬には吐気や乳酸アシドーシスの発生を完全には否定しきれないことなど、既存の血糖降下薬には、なにかしら薬剤特異的な副作用があります。しかしインクレチン関連薬、とくにDPP-4阻害薬はそのような有害事象が少ないことも特徴です(GLP-1受容体作動薬では使用開始から2カ月ほど消化器症状がやや高頻度に現れます)。インスリン分泌が枯渇していない限り使用すべき対象を選ばず、ほぼ全例に処方可能です。
 このため、初期治療に用いたり、より厳格な血糖管理を目指すために他剤に上乗せしたり、SU薬二次無効例に用いてインスリン導入を先延ばしするといった、広範な用途に使えます。日本人糖尿病患者さんは欧米人に比べて糖尿病発症初期からインスリン分泌が低下しているため、インスリン分泌を適度に刺激するインクレチン関連薬は日本人向きの薬であるとの考え方もあります。また、より早期から使うほど、インクレチンの膵β細胞保護・増殖作用を活かせるとも言えます。
 ただし、インスリン抵抗性が強い症例には、それを適切に対処したうえで用いることが、より理に適った使い方だと言えるでしょう。

他剤との併用時の注意
 インクレチンはSU薬とは別の経路でインスリン分泌を促します。だからこそSU薬への上乗せ効果もあるのですが、反面このことは、インクレチン関連薬の上乗せに際して低血糖予防に一層の配慮が求められるということでもあります。SU薬をいったん半量またはそれ以下へ減量した上で、経過をみながら調節する必要があるでしょう。
 このほか、現時点では、製品ごとに保険診療で併用可能な既存薬の組み合わせが異なる点に、注意が必要です。

§5 DPP-4阻害薬の効果確認

DPP-4阻害薬は食後血糖をより強く改善する
 インクレチン関連薬は血糖依存的にインスリン分泌を刺激することから、空腹時血糖よりも食後血糖を強力に下げます。食後の一過性の高血糖「グルコーススパイク」が動脈硬化進展の危険因子である点については既に多くのエビデンスがあり、糖尿病発症後の早期、あるいは耐糖能異常の段階から、その管理が求められるようになりつつあります。
 インクレチン関連薬はインスリンの過剰分泌を来さず、適度なインスリン刺激とグルカゴン分泌抑制によって、グルコーススパイクを改善します。これは、動脈硬化進展に抑制的な作用と言ってよいでしょう。

DPP-4阻害薬は、血糖日内変動を把握し得る検査で効果判定
 現在の血糖管理指標のゴールデンスタンダードはHbA1cです。これは、今日の糖尿病診療指針の確立に多大なエビデンスを提供したDCCTの影響が大きく、DCCT以降、HbA1cをもって糖尿病治療の質が評価されるようになりました。
 しかし、ご存じのとおりHbA1cが良好であっても合併症が進行する症例は少なくありません。当然それには血圧や脂質などの影響も考えられますが、血糖が血管障害へ及ぼす影響をHbA1cでは十分とらえきれていない可能性があります。
 DCCTから20年近くたち、今では、より厳格な血糖コントロールがなされるようになりました。それにより糖尿病特有の細小血管合併症はようやくプラトーに達したように見受けられます。しかし、もちろん完璧と言うにはまだほど遠く、大血管障害合併症については生活習慣の欧米化とあいまって、恐らく今後も増加していくことでしょう。
 このような状況下では、食後高血糖の催動脈硬化作用をより敏感に把握しうる、HbA1cに変わる検査法が検討され、大規模臨床研究等に用いられて、臨床に普及することが望まれます。その候補の一つとして、グリコアルブミン(GA)の有用性もより積極的に検証する必要があるのではないかと考えます。


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〔このコーナーは医療スタッフ対象です〕
妊娠・出産とグリコアルブミン


破線 妊娠中血糖管理におけるグリコアルブミンの有用性

目次


§1 妊娠期間中の血糖管理指標
 このコーナーの第1回目は、糖尿病の患者さんが妊娠を希望したとき(糖尿病合併妊娠)や、糖尿病ではない人が妊娠をきっかけに軽い高血糖になったとき(妊娠糖尿病)は、「血糖の正常化」という通常の糖尿病治療よりもいっそう厳格な血糖管理が必要だという点について、日本糖尿病・妊娠学会前理事長の中林正雄先生に解説いただきました。第2回目は、血糖を正常化できているか否かを判定する検査について話を進めていきます。

「血糖の正常化」を把握できる検査とは?
 現在、血糖管理状態を把握する主な検査として、HbA1c、グリコアルブミン(GA)、1,5-AG の三つがあり、特に HbA1cは世界的にゴールドスタンダードとして繁用されています。

HbA1cの問題点
 HbA1cは採血時点から約1〜2カ月間さかのぼり、その間の血糖状態を反映するため、外来で月1回あるいは2カ月に1回の測定であっても血糖状態を把握できない期間が生じる可能性がなく、使い勝手の良い検査です。しかし、「採血時点から過去1〜2カ月の血糖状態を反映する」ということは、仮に血糖管理が不十分な場合であっても、そのことが検査値に表れるのにも1〜2カ月を要するということです。通常であればそのことで合併症の発症・進展に影響が及ぶとはまず考えられません。しかし、「血糖の正常化」が要求される妊娠中に指標とするには大きな支障となります。
 また、妊娠の進行とともに胎児の鉄需要が増加しますが、それに供給が追いつかず、しばしば鉄欠乏性貧血が生じます。そのとき、代償的に赤血球寿命が延びて、血糖と結合するヘモグロビンの量が相対的に増えます。結果として、妊娠中、特に妊娠後期には、HbA1cが偽高値をとることが知られています。
 さらに HbA1cは、DCCT 以来豊富なエビデンスが蓄積され、合併症の発症・進行との良好な相関が明らかになっているものの、臨床試験の多くは登録時に妊婦は除外されるため、妊娠に伴う合併症の発症頻度と HbA1cの相関に関するエビデンスは、他の血糖管理指標と同様に、必ずしも十分ではありません。

1,5-AG の問題点
 では、1,5-AG はどうでしょうか。
 1,5-AG は採血時点から過去数日間の血糖状態を反映し、より軽度の高血糖に鋭敏に反応するとされています。一見、妊娠中の管理に最も適していると思われる特徴を有しているわけです。しかし、妊娠中は正常妊婦であっても、尿糖排泄閾値の低下によると考えられる1,5-AG の低下が認められます。糖尿病合併妊娠や妊娠糖尿病の場合、血糖状態との乖離が大きく偽低値となり、管理指標にはなりません。

 以上のような理由から、妊娠時の血糖管理指標として、残るもう一つの指標であるグリコアルブミン(GA)に期待が寄せられ、数年前から日本糖尿病・妊娠学会が中心となり、研究が進められてきました。ここで、2010年に発表された同研究の結果を紹介します。

§2 日本糖尿病・妊娠学会の研究から
 日本糖尿病・妊娠学会の調査の目的は二つありました。一つは、正常妊婦における HbA1cとGAの基準範囲を設定すること、二つ目は、設定された基準範囲から逸脱した場合に生ずる妊娠時合併症の頻度を調べることです。

正常妊婦の基準値は、HbA1c5.4%未満、GA15.8%未満
表1 基準値設定に関する研究における解析対象からの除外条件
 まず最初に一つ目の研究結果をみてみましょう。
 国内の9施設から千例を超える症例が報告され、そのうち表1に示す除外条件に該当する例を除き、574例が解析対象となりました。それらの HbA1c、GA、随時血糖の平均値の推移を図1に示します。

図1 血糖コントロール指標の変化(正常妊婦)

 HbA1cは妊娠の進行に伴い、いったん有意に低くなり、その後、非妊娠時・妊娠初期時のレベルに戻ります。GAは妊娠の進行に伴い徐々に低下し、中期以降は非妊娠時・妊娠初期時より有意に低くなります。随時血糖は妊娠の全期間を通じて非妊娠時より有意に低い状態で推移します。
表2 妊娠中のHbA1c・GA基準範囲(Mean±2SD)
 この結果から、妊娠時の基準値として、HbA1cは4.1〜5.3%、GAは11.5〜15.7%という値が設定されました。正常妊婦の約95%はこの範囲に該当するということです。なお、HbA1c、GAともに妊娠の進行に伴い若干変動しますので、より詳しい基準範囲として表2に掲げる値が設定されています。
 また、この研究では、HbA1cやGAに影響を及ぼす因子についての検討も行われ、尿糖陽性の場合には妊娠全期間で HbA1cとGAがともに高値に、尿蛋白陽性の場合には妊娠中期以降にGAが低値になる傾向が認められました。また、非妊娠時にはBMIが高いと、男女ともGAが低くなりやすいことが知られていますが、今回の妊婦を対象とする調査でも、その傾向が確認されました。


GA15.8%以上で新生児合併症が有意に増えるが、HbA1cは相関せず
 このように HbA1cとGAの基準値が設定されたのですが、それではこの範囲を逸脱し血糖値が高かった場合、妊娠に伴う合併症が増えるのか否かが問題となります。それを検証することが二つ目の研究の目的です。
 国内の17施設から193例の糖尿病合併妊婦または妊娠糖尿病の妊婦が登録されました。内訳は、1型糖尿病47例、2型糖尿病89例、妊娠糖尿病57例です。193例の妊婦から193人の新生児が誕生しました。つまり、胎児死亡や新生児死亡はありませんでした。
 このことは、この研究に参加した医療機関は糖尿病と妊娠の分野に力を入れている施設が多かったことを表すものと考えられます。同じ理由から、この調査では、妊娠に伴う合併症の発生頻度が少なく、統計的有意差が表れにくい状況であった可能性も推測されます。

HbA1c値・GA値と妊娠時合併症
 さて、それでは妊娠に伴う合併症の頻度をみてみましょう。
 新生児の合併症として、低血糖が全体の13.8%、高ビリルビン血症が14.8%、電解質異常2.3%、多血症3.6%、呼吸障害7.6%などが報告されました。これらを、前記の研究で示された妊娠中の HbA1cおよびGAの基準値を境界とし、妊娠後期の測定値がそれ以上であった群と未満であった群で分けて比較した結果が図2です。

図2 妊娠時における HbA1cとGAの正常値閾値と新生児合併症の頻度の比較
〔糖尿病と妊娠10(1):27-31,2010〕
                             

 ご覧のとおり、HbA1cを基準値以上と以下で二分しても、いずれの合併症の発生頻度も有意差がみられませんでした。一方、GAでは、高ビリルビン血症と電解質異常を除いて、基準値以上の群では有意に発生頻度が増えていました。また、なんらかの医学的処置が必要な合併症とは異なりますが、妊娠期間に比べて体重が重すぎる新生児(LFD:large for date)の発生頻度についての比較でも、HbA1cでは有意差がなく、GAでのみ有意差がありました。
 なお、母体の合併症や分娩方式(緊急帝王切開の頻度など)については、HbA1c・GAともに有意差はありませんでした。ただし、これは、先に述べたように、本研究では妊娠時合併症の発生頻度自体が少なかったと考えられ、症例数を増やせば統計的な有意差が表れてくる可能性もあります。

§3 「GA15.8%未満」をめざして
        妊娠中の血糖管理を
 以上のように、日本糖尿病・妊娠学会の研究などから、妊娠期間中の血糖管理におけるGAの有用性が示され、既に妊娠中の血糖管理指標としてはGAがスタンダードと言ってよいでしょう。
 幸い日本には世界に冠たる国民皆保険制度があり、だれもが医学の進歩の恩恵を受けられる体制にあります。そして、その保険制度では、糖尿病患者さんの妊娠中には1カ月に2項目の血糖管理指標の算定が認められています。
 つまり、ふだん HbA1cで管理しているため、患者さんが妊娠したからといっていきなりGAに切り換えるのが不安だとしても、ふだんどおり HbA1cを測定したうえで、GAを追加オーダーすることが可能なわけです。
 このような制度を十分に活用して、患者さんの安心・安全な出産に供していただきたいと考えます。
 管理の目標は「GA15.8%未満」です。



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〔このコーナーは医療スタッフ対象です〕
妊娠・出産とグリコアルブミン


破線 糖尿病合併妊娠と妊娠糖尿病

破線


§1 はじめに
 糖尿病と妊娠の分野では近年、いくつかのエポックメーキング的な出来事がありました。例えば、妊娠糖尿病(GDM)の定義と診断基準が世界的に変更・統一されたことや、国内の献血協力者データから若年女性の高血糖の頻度が報告されたことなどです。また治療においても、新しいインスリン製剤や CSII(持続皮下インスリン注入療法)の普及など、「血糖の正常化」という非妊娠時とは比較にならないほど極めて高い管理目標をクリアするうえで有効な手段が登場してきています。妊娠中にはHbA1cよりもグリコアルブミン(GA)のほうが血糖管理指標として適していることも、この分野のトピックとなっています。
 このような新しいトレンドを中心に、「糖尿病と妊娠」に関するエッセンスをまとめてみます。

糖尿病合併妊娠と妊娠糖尿病
 最初に、従来混同されがちであった「糖尿病合併妊娠」と「妊娠糖尿病」の相違について確認しておきましょう。

糖尿病合併妊娠
 糖尿病合併妊娠とは、糖尿病患者さんの妊娠のことを指します。
 糖尿病患者さんの妊娠といいますと、妊娠可能な世代、つまり比較的若い世代の糖尿病患者さんということになりますから、一般的には若年期に好発する1型糖尿病の女性が中心だととらえられることが多いようです。実際、欧米諸国では糖尿病合併妊娠の大半は1型糖尿病と考えられてます。
 しかし、日本人の場合、若年であっても2型糖尿病の患者さんは少なくありません。事実、種々の調査から、小学生高学年の段階ですでに2型が1型の頻度を上回ると報告されていて、それ以降の年齢層では両者の差がさらに拡大することが示されています。晩婚化の影響もあり、妊娠可能な女性の糖尿病としては、1型より2型のほうが圧倒的に多いと考えられます。

妊娠糖尿病(GDM:Gestational Diabetes Mellitus)
 次に妊娠糖尿病ですが、これについては2010年に定義と診断基準が刷新されて、それまで曖昧だった点がクリアになりました。つまり、妊娠糖尿病とは「妊娠中に初めて発見または発症した、糖尿病に至っていない糖代謝異常」であることが明確になりました。妊娠中の検査で糖尿病の診断基準を満たすほどの高血糖が確認された場合や、妊娠前から糖代謝異常が判明していた場合は「妊娠糖尿病」ではなく「糖尿病合併妊娠」に該当します。

 糖尿病合併妊娠と妊娠糖尿病は、母児に発生する合併症の種類や頻度、血糖管理の困難さなどが異なります。しかし、厳格な血糖管理を達成することで合併症が抑制されるという点は共通です。


§2 糖尿病合併妊娠
表1 高血糖による母児の主な合併症
 それではまず糖尿病合併妊娠について解説します。
 かつて「糖尿病の女性は子どもを産めない」とされていました。もちろん今ではそのようなことはありません。しかし、非糖尿病の女性に比べればやはり多くのリスクがあることは否定できません。妊娠前、妊娠中の血糖正常化が不十分だと、奇形をはじめとする胎児の合併症と、網膜症や腎症の急速な進行といった母体の合併症が生じてしまいます。もっともこれは、逆に言えば、妊娠前・妊娠中の血糖の正常化に成功すれば、妊娠に伴うリスクは非糖尿病女性と同等に抑制されるということでもあります。

計画妊娠が必要
 表1に挙げた高血糖による主な母児の合併症のうち、とくに問題となるのは、胎児奇形と母親の網膜症・腎症の急速な進行です。これらを抑制するためには、「計画妊娠」が欠かせません。
 計画妊娠とは、妊娠を希望した時点から厳格な血糖管理をスタートし、あわせて糖尿病に伴う合併症を精査・治療して、血糖管理や合併症の状態が安定したことを確認してから妊娠を許可する方法です。ポイントは、これらの管理を「妊娠してから」ではなく「妊娠を希望した時点から」始めるという点です。

計画妊娠が必要な理由 1:胎児奇形を減らす
 胎児の基本的な器官形成は、受胎後ごく初期の数週間でなされます。妊娠したことにご本人が気付くのは通常、月経周期を越えて4週間ほど経過してからなので、計画妊娠でない場合、妊娠に気付いた時点で、高血糖下での器官形成が既にかなり進行しています。奇形のリスクが高くなってしまうということです。
 また、催奇形性などのために妊婦には禁忌の薬剤(例えばRA系阻害薬)を、妊娠に気付くまで数週間、服用してしまうこともあります。

計画妊娠が必要な理由 2:母体の保護
 妊娠成立後に、治療されていない不安定な網膜症が見つかった場合、妊娠を継続するため急速に血糖を改善すると、網膜症の進行を助長してしまいかねません。進行した腎症が見つかった場合も、腎症による妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)や胎児の発育不全などの頻度が高くなるばかりでなく、腎機能が急速に悪化するリスクがあります。
 これらの合併症から母体を守るために、治療的流産を選択しなければならないケースもあります。

見逃されがちな2型糖尿病への対策が急がれる
「計画妊娠」が必要なことは、1型か2型かという糖尿病のタイプにかかわらず、同様です。なぜなら、妊娠に伴って起こり得る母児の合併症は、血糖管理が不十分なことが原因だからです。
 そこで問題になるのが、2型糖尿病の女性患者さんです。
 1型糖尿病の患者さんは、妊娠中の発症というごく希なケースを除き、妊娠する以前から定期的に通院し、ご本人の病識も高いことが多いので、多くの場合、計画妊娠に至るまで避妊が保たれます。しかし2型糖尿病の患者さんは自覚症状がないため、患者さんご本人が糖尿病に気付いていないという現実があります。また、糖尿病に気付いていても医療管理下にない場合が少なくありません。
 既に述べましたように、本邦では若年であっても1型より2型のほうが多いです。その結果、計画妊娠によらずに妊娠後に糖尿病と診断されるケースがあとをたちません。妊娠可能年齢の女性にどのくらい糖尿病の患者さんがいるか、ごく最近、献血協力者のデータを解析した結果が報告され明らかになりました。
 日本赤十字社では2009年3月から献血協力者全員にグリコアルブミン測定を無料で実施しています。現在、グリコアルブミンが15.6%未満を基準値上限とし、15.6%以上16.5%未満を「正常高値」、16.5%以上18.3%未満を「境界域」、18.3%以上を「糖尿病域」としており、正常高値者には注意を促し、境界域や糖尿病域の該当者には受診を勧奨しています。
表2 献血協力者におけるGA高値の頻度
 表2にそのデータを示します。おわかりのように、20〜30代でも「正常高値」や「境界域」、「糖尿病域」の人が少なくありません。そして近年の晩婚化の流れとともに、妊娠前に糖尿病を発症していて、それが見逃されている女性は決して少なくないと考えられます。
 このような人たちの大多数は医療管理下にないと考えられ、計画妊娠の重要性を伝える術が限られています。献血を一つのスクリーニングとして活用するための積極的な広報など(パートナーとなる同世代の男性への情報提供も含めて)、対策が急がれます。

§3 妊娠糖尿病(GDM)
 妊娠糖尿病の定義は「妊娠中に初めて発見または発症した、糖尿病に至っていない糖代謝異常」と世界的に統一されたことは先ほども述べました。具体的な診断基準を表3に示します。
 この診断基準は、世界10カ国、約2万5,000人の妊婦の血糖値と合併症の関係を調査した大規模臨床試験「HAPO(Hyperglycemia and Adverse Pregnancy Outcomes)スタディ」の結果を受け、IADPSG(International Association of Diabetes and Pregnancy Study Groups)が2010年3月に提唱したものが元になっています。この提唱を受けて本邦では、日本糖尿病・妊娠学会が同年6月に診断基準を決定し、翌7月の日本糖尿病学会の糖尿病診断基準改定に反映され、正式に採用されました。
 以前の国内の診断基準と比べると、より積極的に診断されることから、妊娠糖尿病該当者は従来の約4倍になると推計されています。もちろんこの診断基準はエビデンスに則ったものです。つまり、この基準を満たす場合、満たさないケースに比べて妊娠に伴う合併症が有意に増えることが HAPO スタディで明らかになっています。

表3 妊娠糖尿病(GDM)の診断基準
       
  
妊娠糖尿病の危険因子は2型糖尿病の発症危険因子と同じ
 妊娠は母体にとっては負荷となります。糖代謝の面では、胎盤からインスリン抵抗性を強める種々のホルモン分泌が増えますし、胎盤でインスリンが破壊されることから、インスリン需要が増えます。つまり妊娠は、diabetogenic(催糖尿病的)であるわけです。
表4 妊娠糖尿病の危険因子
 健常妊婦であればそのような変化とともにインスリン分泌が増え、血糖値は正常域に保たれます。しかし、遺伝的にインスリン分泌能が十分でない場合やもともとインスリン抵抗性が強かった場合には、インスリン需要を代償できずに高血糖が現れます。よって妊娠糖尿病は、2型糖尿病の危険因子をもっている女性が、妊娠という diabetogenic な負荷に耐えられず、一過性の高血糖を呈している状態と言えます。
 表4に妊娠糖尿病の危険因子を挙げました。一見して、これらが2型糖尿病の危険因子と同一であることがおわかりいただけると思います。

妊娠糖尿病で起こり得る合併症
 妊娠糖尿病で血糖管理が不十分な場合に増える合併症は、その種類としては糖尿病合併妊娠と同様ですが、胎児奇形はあまり高頻度ではありません。なぜなら、妊娠糖尿病は妊娠という負荷によって徐々に生じる糖代謝異常ですから、胎児の器官形成が行われる妊娠初期の血糖値は正常域であることが多いからです。
 その一方で、妊娠中の高血糖によって胎児の成長が早くなるため、糖尿病合併妊娠と同様に、巨大児出産などのリスクは高くなります。

出産後の経過に注意
 妊娠糖尿病を診断する一義的な理由は、前記のような妊娠に伴う合併症を防ぐことです。しかし、重要な意味がもう一つあります。出産後の耐糖能異常や2型糖尿病の発症を見逃さないこと、できればそれらの発症を予防することです。
 妊娠糖尿病は妊娠という負荷による一過性の高血糖状態ですから、出産とともにほとんどの場合、糖代謝は正常域に戻るのですが、加齢とともに高頻度に2型糖尿病を発症してきます。そのリスクは、妊娠糖尿病にならなかった女性の7倍に及ぶとの報告もあります。2型糖尿病の発症予防や早期発見のため、「妊娠糖尿病になったのだから、2型糖尿病になりやすい」という事実をしっかり伝える必要があります。

§4 妊娠時の血糖管理
 さて、それでは最後に妊娠中の血糖管理について簡単に触れます。
 妊娠中には母体のインスリン抵抗性が亢進し、しかもそれが一定しているわけではなく、妊娠の経過とともに大きく変化します。また、母体から胎児へのブドウ糖供給が優先されることや、つわりによる食事量の減少などのために、低血糖も発症しやすくなります。
 つまり、非妊娠時に比べて血糖が乱れやすい状態であるにもかわらず、母児の合併症を防ぐために「血糖の正常化」が求められるということです。

血糖正常化の手段
 血糖正常化の方法ですが、妊娠中の血糖管理も食事療法が基本であることは非妊娠時とかわりありません。妊娠糖尿病の多くは食事療法と運動療法で血糖の正常化が可能ですが、一部はインスリン療法が必要になることがあります。一方、糖尿病合併妊娠の場合、食事療法だけで血糖の正常化を達成することは困難です。血糖を正常化することが難しければ、ためらわずにインスリン療法をスタートします。
 経口薬でなくインスリンを用いる理由は、経口薬の成分は胎盤経由で胎児に移行して胎児低血糖を誘発するからです。インスリンは胎盤移行せず、その心配がありません。また、インスリンのほうが経口薬よりも血糖管理が容易であることも大きな理由です。

妊娠中のアナログ製剤の使用について
 近年、ヒトインスリンの構造に修飾を加えた超速効型インスリンや持効型溶解インスリン、あるいは GLP-1受容体作動薬が登場し、非妊娠時においては血糖管理上の有用性が確立しています。
 これらのアナログ製剤のうち、超速効型インスリンは妊娠中に用いても安全性に問題ないと考えられ、既に臨床で広く用いられています。持効型溶解インスリンについては IGF-1との親和性が強いことが不安材料となり、妊娠中の使用を控えるケースが多いようです。他の製剤での血糖管理が困難な場合は十分なインフォームドコンセントのもと使用します。GLP-1受容体作動薬は動物実験で軽度の催奇形性等の報告があることなどから、妊婦には用いません。
 なお、最近、CSII(持続皮下インスリン注入療法)や CGM(連続血糖モニタリング)が、機器改良、保険点数等の改善により、糖尿病合併妊婦の臨床に徐々に普及してきています。
    GLP-1グルカゴン様ペプチド-1(glucagon like peptide-1)の略。食事摂取に伴い十二指腸や小腸から分泌されるホルモン「インクレチン」の一つ。高血糖時のみインスリン分泌を促し、グルカゴン分泌を抑制します。
    IGF-1インスリン様発育因子-1(insulin like growth factor-1)の略。インスリン様の作用をもつポリペプチドで、主に肝臓で成長ホルモンの刺激を受けて産生されます。各種細胞の分化を促進し、特に骨の成長に強く関与します。
血糖管理指標はグリコアルブミンがスタンダード
表5 妊娠中の血糖管理の目標値
「血糖の正常化」という目標を具体的な数値で示すと、表5のようになります。血糖の日内変動を SMBG(血糖自己測定)で把握し、グリコアルブミン(GA)で血糖管理状態を評価するという方法が、現在のスタンダードです。
 血糖管理の評価にHbA1cではなくGAを使うのは、HbA1cは過去1〜2カ月の平均血糖値と相関する検査であり、妊娠中の厳格な血糖管理の指標とするには反応が遅すぎることや、妊娠後期の鉄欠乏の代償の結果と考えられる見かけ上の上昇など、血糖状態を正確に表していない可能性があるためです。
 一方、GAは過去2〜4週間程度(とくに直近の2週間)という比較的短期間の血糖状態を反映するため、血糖管理悪化を素早く把握できますし、鉄欠乏の影響を受けないことが確認されています。
 なお、1,5-AG は、より短期間の血糖管理指標ですが、妊娠に伴う尿糖排泄閾値の変動の影響を受けるため、妊娠中に用いる事は適当でありません。
 日本糖尿病・妊娠学会では、全国規模の臨床研究の結果から、妊娠中は「GA15.8%未満」を目標に管理することを推奨しています。GA15.8%未満の群と以上の群では新生児合併症の頻度が有意に異なることも報告されています。妊娠中の患者さんの場合には、1カ月に2項目の血糖管理指標の算定が認められていますので、これを活用し、少しでも合併症を減らすよう配慮したいものです。

 シリーズの第2回目は、同学会理事長の平松祐司先生に、グリコアルブミンによる妊娠時の血糖管理について、解説いただくことになると思います。


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