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27. 血糖値の情報量
2002年08月
「以前に血糖値 220 で糖尿病だといわれていたけど、この前の健康診断では160。病院に行ってないのにだいぶよくなった!」、「検査を受けたら血糖値が 240 もあって大ショック。去年は150 だったのに…」。健康診断を受けた人がこのように話しているのを、しばしば見聞きします。確かに、糖尿病は血糖値の検査で診断される病気ですから、検査結果が低ければ糖尿病がよくなったと思い、高ければ糖尿病がひどくなったと思うのは自然かもしれません。でも、血糖値が低ければ、糖尿病でないこと、糖尿病がよくなったことの証明になるのでしょうか??  今回は血糖値の検査結果がもつ意味について考えてみます。

■糖尿病は血糖値が高くなる病気

 糖尿病は血糖値が高くなる病気です。糖尿病かそうでないかは、血糖値を測って診断します。血糖値が高い状態が続いていると自覚症状がなくても、血管に負担がかかることなどからさまざまな合併症が起きてきます。ですから検査で血糖値が高いとわかった場合は合併症を防ぐため、血糖値が高くならないように治療を続けます。

 ここで、ほかの病気の検査と治療の関係に目を向けてみましょう。
 糖尿病と同じように、自覚症状が少く検査値によって診断され、合併症が心配な病気として、高血圧症や高脂血症、高尿酸血症などがあげられます。高血圧症は、血圧が高い状態が続くことから血管障害が起きたり、腎臓や心臓などの臓器に合併症が起きる病気です。高脂血症は、悪玉コレステロールや中性脂肪(トリグリセリド)が高い状態(または善玉コレステロールが低い状態)が続くことで動脈硬化が起き、心臓や脳の発作を起こしたりします。高尿酸血症は、尿酸値(血液中の尿酸の濃度)が高い状態が続くことで、腎臓障害や動脈硬化が進んだり、痛風になったりする病気です。

 これらの病気では、治療効果の確認に、診断に用いる検査と同じ検査が用いられます。つまり、高血圧症なら血圧、高脂血症なら血清脂質、高尿酸血症なら尿酸値の検査が治療の指標となるということです。それぞれの検査値が高いほど、治療が不十分な状態と考えられます。

 糖尿病も、やはり同じです。
 糖尿病の診断で用いられる検査値は血糖値。血糖値は、高血圧治療における血圧測定などと同じように、糖尿病治療の指標として大切な意味をもっています。ただ、ひとつだけ、血圧や血清脂質、尿酸値と違う点があります。それは、血圧や血清脂質、尿酸値などは、時間が日が変わってもそれほど極端には変動しないのに対し、血糖値は食事や運動、ストレス、その他の影響を受けて、同じ1日のなかでも、測定するタイミングによって大きく変化するということです。

■血糖値は上下動の幅が大きい

 たとえ話ですが、東京の東のほうは標高の低い平野で、ゼロメートル地域などがあります。しかし、東京の西域は丘陵地で、さらに奥多摩には 2,000メートルを超える山があります。仮に東京の東のほうで暮らしている、地図を見たことがない人がいれば「東京は平野ばかりで山はない」と思ってしまい、東京の地形の全体像を見誤ったとしても不思議ではありません。

 ある地域全体の地形を把握する場合、1地点だけの標高を測ったとしても、そのことで得られる情報はほんのわずかです。数か所の標高を測定して、はじめておぼろげながら地形の全体像がわかるようになり、測定地点を増やすにしたがい、正確に把握できるようになります。

 血糖検査は、1地点での標高測定といえます。
 東京の標高がゼロメートルから 2,000メートルまで変化に富むように、血糖値は、健康な人の場合でも1日のうちに 70mg/dL〜140mg/dL ぐらいの幅で変化します。糖尿病の人の場合、食後に 200mg/dL かそれ以上になっているのに、食事前などの血糖値が低いときは健康な人と同じ数値となる場合も珍しくありません。

 このため、たとえば朝食を食べず空腹状態で受ける血糖検査だけでは、糖尿病を見逃してしまったり、糖尿病がきちんと治療できているのかどうかが、あまりよくわかりません。23区内の標高ばかり測っていては、東京の西部が山間部であることを想像できないのと同じです。

 そこで、これを補うために HbA1Cなどの、過去にさかのぼり長期の血糖コントロール状態を把握できる検査と照らし合わせて、治療効果を判断する必要があるのです(HbA1Cは、計測ポイント周辺の標高の平均値といえます)。また、血糖自己測定により、血糖値が高そうな時間帯を見計らって測定すれば、糖尿病の状態をより正確にとらえることができます(東京の一地区に片寄らず、都下のいろいろなポイントで標高計測することに該当します)。
 ここまでの話を表形式で整理してみましょう。

検査値病気の診断前治療開始後
高 い正 常変化なし/高くなった低くなった
血  圧高血圧症の可能性が高い高血圧症の可能性は低い治療が不十分治療がよい
血清脂質高脂血症の可能性が高い高脂血症の可能性は低い治療が不十分治療がよい
尿 酸 値高尿酸血症の可能性が高い高尿酸血症の可能性は低い治療が不十分治療がよい


1回のみの測定糖尿病の可能性が高いなんともいえない(情報量が少ない)
時間をずらして何回か測定毎回高い場合:糖尿病の可能性がきわめて高い
毎回正常の場合:糖尿病の可能性は低い
高いときと正常なときがある場合:糖尿病の可能性が高い
以前と同じか以前よりも高いことが多い:治療が不十分
以前よりも低いことが多い:治療がよい
HbA1C糖尿病の可能性が高い糖尿病の可能性はあまり高くない治療が不十分治療がよい
※HDLコレステロール(善玉コレステロール)は数値が低いほどよくない

■血糖値の山のどこを測っているのか

 つまり、年に1回血糖値を測って「去年より低くなった」といっても、それが血糖値の山(血糖曲線)のどこを測ったのかがわからなければ、喜ぶのは早いということです。本当に糖尿病の治療がよくて血糖値が下がったのかもしれませんが、単に去年は山の中腹で測定したのに今年は山のふもとで測定した違いだけなのかもしれないからです。

 血糖検査の結果をひとつの情報として生かすには、あたりを見渡したり(数日間、血糖自己測定を1日数回行う)、HbA1C検査などを参考にして、周囲の血糖山がどんな稜線を描いているのか把握することが必要です。血糖値と糖尿病、HbA1Cのこのような関係を理解して、隠れているかもしれない高血糖を見逃さないようにしましょう。

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INDEX
  1. 厚生白書に見る糖尿病
  2. 糖尿病の患者数と医療費の推移
  3. 目で見る病型、病気のかたち
  4. 糖尿病食と減塩食
  5. 5分でわかる糖尿病
  6. インスリンを打つということ、食事を摂るということ
  7. 足がビリビリ? 神経障害
  8. 糖尿病ネットワークを担当して
  9. 『糖尿病からの帰還』を読んで
  10. 眼鏡をかけるとよく見える?
  11. 糖尿病の方が加入できる保険
  12. 糖尿病と人工透析(1999)
  13. 長時間、飛行機に乗る際に
  14. 高血糖は高血圧や高脂血症より、健康上の問題として認識されにくい
  15. インスリン誕生の地
  16. GOLD・たばこ・糖尿病
  17. 「糖尿病ネットワーク」開設5周年
  18. 食後3時間以上経過して血糖値200以上の人の頻度、ほか
  19. 超速効型インスリンは、山を削って谷を埋める
  20. 尿糖を調べてみよう
  21. 生活習慣病の一次予防に向けて
  22. “インスリンに頼る”という表現
  23. 民間療法
  24. 「日臨内研究2000」にみる、糖尿病性神経障害とわが国の糖尿病の実態
  25. 糖尿病の食事療法
  26. 雑感『生活エンジョイ物語』
  27. 血糖値の情報量
  28. 女性糖尿病患者はどこに?〜性差と病名について〜
  29. 気になったセールストーク
  30. インスリン療法を続けて50年 第1回「リリー インスリン50年賞」表彰式
  31. 糖尿病患者として世界で初めて南極点へ到達 ウイル・クロスさん
  32. 糖尿病とたばこ
  33. 旅行者血栓症
  34. インスリン療法を続けて50年
  35. 糖尿病患者さんの年末・年始の過ごし方