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23. 民間療法
2001年12月
 真っ先に逃げ口上を述べますが、今回の内容については多分いろいろと異論反論があると思います。そのために“Part1”としました。もっといろいろな情報をとり入れて、いずれ“Part2”として、もう少しましな文を書けたらいいなと思っています。

■民間療法の定義

 話の順序として最初に“民間療法”の範囲を明らかにしておく必要があると思いますが、ここではとりあえず、手もとの辞書に書かれている「医師によらず、一般人の間で伝承または発見した方法によって行う疾病の治療法」ということにします。細かくいえば、ひと口に“医師”といっても、大勢の医師なのか少数の医師なのか(あるいは国内の医師なのか特定の国・地域の医師なのか)によって、この説明の範疇に入る治療法も異なると思いますが、定義だけで日が暮れそうなので、ここではおいておきます。

■民間療法は○か×か…

 糖尿病や糖尿病予備軍の人のうち、医療機関を受診し治療を続けている人は少数派です。民間療法ではない医師による“正統な”治療を受けている糖尿病患者は、厚生労働省の「糖尿病実態調査」と「患者調査」の比較から、3人に1人以下であることがわかります。つまり、多くの糖尿病の人は糖尿病を放置しているか、自分なりに気をつけているのでしょう。
 その“多数派”の人たちのための情報源として、テレビの健康情報番組があり、新聞の健康情報欄があり、書店の棚を埋めつくす健康雑誌の数々があり、口コミ情報があります。全国紙の場合、記事として民間療法が取り上げられることはあまりありませんが、広告欄には毎日必ず掲載されています。糖尿病の人の多くは、病気に関するしっかりとした知識を得る機会のないまま、このような情報に接していることになります。
 これらの情報についてひとつひとつ警告や反論を試みても、なかなか話は前に進みません。そこで今回は、特定の民間療法が○か×かではなしに、民間療法のなにが問題なのか(あるいは問題はないのか)、問題があるとすればそれを防ぐにはどうすればよいのかを考えてみます。

■糖尿病で民間療法が問題になるとき

 民間療法は糖尿病に限らず高血圧、がん、アトピー性皮膚炎、脳卒中後遺症など、いろいろな病気(状態)で行われています。それぞれ若干、問題点の傾向が異なるようです。
 高血圧の場合、民間療法に頼りきって本来の治療を怠ってしまい、結果的に高血圧状態が長引き合併症を起こす可能性が心配ですが、民間療法を始めたからといって、すぐに病気に影響を及ぼすことはそれほど多くないと思います。がんの場合、民間療法に頼るとしても、それによって医師が行う本来の治療を受けなくなるということは、あまりないでしょう。このため直接的な弊害は少ないと思われます。
 アトピー性皮膚炎の場合はちょっと複雑です。なぜなら、その民間療法が単に効果がないだけならまだしも、患者さんの病状にあわない場合は逆に病気を悪化させてしまうことがあるからです。実際にそのようなトラブルで裁判になっているケースが報道されています。
 糖尿病と民間療法の関係を考えるとき、さらに問題を複雑にしているのは、糖尿病は病気の幅がとても広い病気だということです。どのような治療を行っているのか、実際にどのくらい血糖コントロールできているのか、高血糖の主要原因がインスリン抵抗性なのかインスリン分泌不全なのか、1型なのか2型なのか(またはその他の型なのか)、合併症があるのかないのか(その程度は)などによって、同じ民間療法でも全く違った結果につながる可能性があります。
 極端な例をあげれば、インスリン非依存状態で血糖値がそれほど高くなく合併症のない人の場合、一時的に民間療法に頼り切って本来の治療を中断しても、前記の高血圧の場合と同じように直ちに問題が生じる頻度は少ないといえます(もちろん「合併症を防ぐ」という糖尿病治療の目的からみれば、これも大いに問題ではありますが)。しかし、インスリン依存状態にある人(1型糖尿病の人)が同じような対応をした場合、短時間のうちに生命の危険さえ生じます。


■民間療法にまつわる勘違い

 ここでちょっと、なぜこれだけ民間療法がちやほやされるのかを考えてみます。

  • 面倒な治療より手軽にできる方法で治療したい
  • 新聞やテレビでこれだけ話題になっているのなら、効果がないわけがない
  • なにもしないでいるよりはいいだろう
  • みんなこれで体調がよくなったといっている。自分もなんだか調子がいい
  • 糖尿病といわれたが、これを利用しているおかげで、からだはなんともない
  • 食事療法や運動療法を一生続けるのは耐えられない。でも合併症はいやだ
  • 医者にかかっても結局治らない。だったら自分で治そう
  • 人工的に作られている薬よりも、この自然食品のほうがからだによいに決まっている
  • 糖尿病は体質の病気。これを使って体質を改善すれば、糖尿病を元から治せる
  • 自分はこれで薬が不要になったし、からだが楽になった。糖尿病で苦しんでいる人のために、この効果を世間に伝えずにはいられない
  • これを飲めば(食べれば)、インスリンがいらなくなる
  • このあいだの検査で血糖値が正常だったのは、これを利用し始めたおかげだ
  • あの親切な○○さんが熱心に勧めるのだから、間違いないだろう
  • 家族や身近な人が民間療法を試したいといっている。効果はないとは思うが、本人を前にして「駄目だ」とはいいにくい
  • その他、いろいろ
 このように、民間療法の効果を期待したり、実際に始めたり、効果があったと判断してしまうようになる状況はたくさんあります。糖尿病をきちんと理解している人にとっては、これらのほとんどが誤解であったり、取るに足らない情報であることがわかります。しかし、糖尿病の知識が不十分な場合(糖尿病の治療を受けていない“多数派”の人たちの多く、また、治療を受けている人の一部もこれに該当すると思われます)、これらの情報の曖昧さ、根拠のなさ、隠れている重大な問題点を知ることはできません。

■民間療法に関する情報に接したときの、7つのチェックポイント

 ようやく本題に入ります。以上のことをまとめつつ、民間療法の情報に接するときの注意点を整理してみましょう。

(1) 糖尿病の状態は、検査を受けなければだれにもわかりません

 血糖値が高くても、ほとんどの場合、自覚症状はありません。また合併症も、後戻りできないような状態になるまで無症状で進行することが多いものです。ですから民間療法を信じて続けていても、検査を受けないことには、糖尿病が本当に治療できているのかどうかを確かめたり、合併症がすでに起きているのではないかという不安を打ち消すことはできません。

(2) 血糖値は測定のタイミングでは大きく変動するものです
「これで血糖値が○○も下がった!」という宣伝文句を毎日のように目にします。でも、血糖値は食事の前か後かはもちろん、食事の内容・量、測定時の体調・気分、測定前にからだを使ったかどうかなどのほか、実に多くの影響を受けて時々刻々と変化し続けている数値です。仮に民間療法を始める前と後の検査で血糖値が変化していたとしても、その程度の変化は毎日からだのなかで起こっているあたり前の変動に過ぎず、その変動を断片的にとらえただけと判断するのが妥当です。

(3) 血糖値が本当に下がった場合、さまざまな要因が考えられます
 一歩譲って、ある民間療法を開始したら確かに血糖値が下がったとします。しかし、だからといって、それを民間療法の効果と断定することはできません。民間療法の開始とともに、本人は気付いてなくても、食事の習慣がよくなっていたり、少し多めにからだを動かしているのかもしれません。また、いわゆるプラセボ効果もあることでしょう。「からだによいことをしている」という安心感からストレスが減り、血糖値によい影響が出た可能性もあります。それらのトータルで若干効果がみられたと考えたほうが自然で、「これは絶対効くからあの人にも勧めなくちゃ」と思うのは早合点です。その民間療法を行った人の一部にみられる程度のわずかな効果は、ほかの人にはたいてい意味がないものです。

プラセボ効果:プラセボは日本語では偽薬と呼ばれています。新しい薬の開発段階では、新薬が本当に効果があるのかないのか確認するため、なんの効果もないデンプンなどと比較して、有効性に差があることを証明する試験が行われます。患者さんが偽薬と知らずに服用した場合、本来効果などあるはずがないのに、暗示などにより、少し病状がよくなることがあります。これがプラセボ効果です。プラセボ効果は、使われる薬(実際は偽薬です)が高価で貴重なものだと伝えられるほど、より強く現れる傾向があります。

(4) 一時的に血糖コントロールがよくなっても、糖尿病が治ったわけではありません
 (3) のような理由で、本当に血糖値が下がったとしましょう。しかし、それが糖尿病が治ったことを示すものではないことを知っておいてください。糖尿病は、「治る」とか「治らない」というよりも、治療を続けることで「一生治ったと同じ状態を維持する病気」です。民間療法で血糖コントロールが一時的に改善したからといって、その状態がずっと続くと考えるのは、少し安易な考え方です。血糖コントロールが悪くなってきたり、合併症が発病した場合にそれをすぐに見つけられるよう、検査は忘れずに受けましょう。
(5) 驚くほどの効果がある民間療法は、それだけ要注意
 民間療法と呼ばれるもののほとんどは、効果もなければ害もないものです。しかし、違法に血糖降下薬が混ぜられたものが流通していたこともあります。そうと知らずにそれを服用した場合、低血糖が起きて対処方法を知らないと危険な状態に至ることもありますし、その他の副作用・相互作用も大変心配です。もし、血糖値が驚くほど改善したという食品の情報を耳にしたら、十分注意し疑ってかかるほうが安全です。

(6) インスリン注射を勝手に中断するのは大変危険です
 インスリン注射をしている人が、なんらかの原因で注射を中断してしまい、高血糖による意識障害で病院に運びこまれた、という話がしばしば伝えられます。なにか病気にかかって食事をとれないときに、食事を食べない以上はインスリンは打たないほうがよいと自己判断してしまった結果であることが多いようですが、なかにはインスリン注射をしている人(またはその親)が、民間療法の力を信じてインスリン注射をやめてしまい、このような結果になることもあるようです。糖尿病の民間療法で一番問題になる、危険なケースです。
(7) それでも民間療法を試すなら、治療の基本を守ったうえでの“付け足し”に
「それでもこれを試したい」というものがあれば、必ず本来の治療を行ったうえで、付け足しとして始めてください。民間療法一本に絞ると、上記の理由から、そこここにある落とし穴にはまりやすいことがおわかりいただけると思います。また、始める前にできる限り主治医に相談したり、すでに民間療法を始めている場合は折をみて主治医に伝えたほうがよいでしょう。民間療法は、それ自体が直接害になることは多くはないと思いますが、病状によっては(糖尿病の合併症があったり、糖尿病以外の病気があるとき)、よくないものもあると考えられます。

■民間療法を人に勧める際のマナー

「すべてわかった。でも自分はこのおかげて本当に人生が変わった。ぜひこの幸せをほかの人にも分けてあげたい。これは使命だ」。たまにこんな人に出会います。その熱心さには、頭が下がります。こんな人は、全くの親切心からの行為で、決して「これでひと儲けしよう」などとは考えてないように思えます。ただし、その熱心さが迷惑な人もたくさんいます。
 ここで、前項と一部重複しますが、民間療法をほかの人に勧める際のマナーについて、ポイントを並べてみます。逆にいえば、これらのポイントを押さえずに民間療法を勧めてくる人の話は、眉毛にしっかり唾をつけて聞かないといけません。

(1) 糖尿病について十分勉強してから

 人に治療法を勧める以上は、糖尿病について、相手になにを聞かれても自分の言葉で、相手が理解できるように説明できる自信をもちましょう。少なくても、一般的な解説書に書かれていることは正確に理解しておきましょう。わからないことは適当に答えるのではなく、「わからない」と明確に答えましょう。
(2) 相手の病状、治療内容を十分聞いてから
 相手の糖尿病のタイプや、普段どのような治療をしているのか、HbA1Cはいくつか、合併症があるのかないのか、ちゃんと通院しているのか、本来の治療をきちんと行っているのか、こういった点をすべて確認し、大丈夫と判断してから勧めてください。当然、このようなことを気兼ねなく話し合える仲であることが前提となります。
(3) その食品・サービスの価格に注意
 その民間療法が社会通念上、食品として(サービスとして)適正な価格かどうかをもう一度確認してから人に勧めましょう。糖尿病の治療は一時的なものでないのですから、相手がそれほど必要性を感じていない高価なものを買い続けることで、人間関係に支障が及ぶことも起こりかねません。

(4) 乗る気でないない人に無理強いするのはやめましょう
 民間療法に対する考え方は人それぞれ異なります。ほかの話題では気が合う人でも、民間療法を無理強いしたばかりに人間関係がこじれてしまっては残念。少し話を傾け、相手が乗る気がないと思ったら、それきりにしましょう。

(5) その人と長年お付き合いする覚悟で
 糖尿病は長い病気です。今は元気でも、治療が十分でなければやがて合併症が起きます。そのときになって、「あのときはこんなものに手を出して損した」なんて思われたら、お互い辛いものです。人に民間療法を勧めるときは、その人と一生よいお付き合いをする覚悟をもっていただきたいものです。

■結論

 今回の話の結論は、民間療法を取り巻く問題を個人個人がよく理解することが大切、ということです。最後まで読んでいただきありがとうございました。

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INDEX
  1. 厚生白書に見る糖尿病
  2. 糖尿病の患者数と医療費の推移
  3. 目で見る病型、病気のかたち
  4. 糖尿病食と減塩食
  5. 5分でわかる糖尿病
  6. インスリンを打つということ、食事を摂るということ
  7. 足がビリビリ? 神経障害
  8. 糖尿病ネットワークを担当して
  9. 『糖尿病からの帰還』を読んで
  10. 眼鏡をかけるとよく見える?
  11. 糖尿病の方が加入できる保険
  12. 糖尿病と人工透析(1999)
  13. 長時間、飛行機に乗る際に
  14. 高血糖は高血圧や高脂血症より、健康上の問題として認識されにくい
  15. インスリン誕生の地
  16. GOLD・たばこ・糖尿病
  17. 「糖尿病ネットワーク」開設5周年
  18. 食後3時間以上経過して血糖値200以上の人の頻度、ほか
  19. 超速効型インスリンは、山を削って谷を埋める
  20. 尿糖を調べてみよう
  21. 生活習慣病の一次予防に向けて
  22. “インスリンに頼る”という表現
  23. 民間療法
  24. 「日臨内研究2000」にみる、糖尿病性神経障害とわが国の糖尿病の実態
  25. 糖尿病の食事療法
  26. 雑感『生活エンジョイ物語』
  27. 血糖値の情報量
  28. 女性糖尿病患者はどこに?〜性差と病名について〜
  29. 気になったセールストーク
  30. インスリン療法を続けて50年 第1回「リリー インスリン50年賞」表彰式
  31. 糖尿病患者として世界で初めて南極点へ到達 ウイル・クロスさん
  32. 糖尿病とたばこ
  33. 旅行者血栓症
  34. インスリン療法を続けて50年
  35. 糖尿病患者さんの年末・年始の過ごし方