「グリセミック・インデックス(GI)」は、食後血糖値の上昇度を示す指数のこと。GIの高い食事をしていると、血糖値が短時間で上昇しやすくなる。
GIが低い食事をしていると、とくに⼼筋梗塞や脳梗塞などの循環器疾患のリスクが低下するという研究が発表された。
食事のGIを低くし、血糖値が上がりにくくするために、食物繊維が豊富に含まれる「全粒穀物」を利用する方法がある。
全粒穀物を食べると、2型糖尿病のリスクが大幅に減少するという研究も発表された。
糖質や食物繊維により血糖値の上がりやすさに違いが
グリセミック・インデックス
数値が低いほど食後の血糖値が上がりにくい
「グリセミック・インデックス(GI)」は、食後血糖値の上昇度を示す指数のこと。GIの高い食事をしていると、血糖値が短時間で高い値に上昇しやすくなる。
糖質が多く食物繊維の少ない食品や飲料はGI値が高いことが多い。たとえば、白米などの精製穀物は玄米などの全粒穀物よりもGI値が高いことが知られている。
一般的に、血糖値が上がりやすいのは、ごはんやパン、麺などの主食や、ジャガイモ、お菓子、高カロリーの清涼飲料など、炭水化物の多い食品とされている。ついでタンパク質の多い肉類や魚類、卵、乳製品など、さらには油の多い食品が続く。
三大栄養素のひとつである炭水化物は、体内で消化吸収される糖質と、消化されにくい食物繊維に分かれる。糖質はすぐにエネルギーになりやすく、血糖値を上げやすい。
同じ量の炭水化物を含む食品でも、糖質や食物繊維などの量により、血糖値が急激に上昇するものとおだやかに上昇するものがある。日本でも根強い人気がある「低GIダイエット」や「低炭水化物ダイエット」は、炭水化物の摂り方に着目した食事法だ。
炭水化物は大切な栄養素 でも急な血糖上昇には注意が必要
グリセミック・インデックスが低い食事をしていると、⼼筋梗塞や脳梗塞などの循環器疾患のリスクが上昇しないという研究が発表された。
「JPHC研究」は日本人を対象に、さまざまな生活習慣と、がん・2型糖尿病・脳卒中・心筋梗塞などとの関係を明らかにする目的で実施されている多目的コホート研究。
国立がん研究センターや東京大学などの研究グループは、1990年に岩手、秋田、長野、沖縄、東京、1993年に新潟、茨城、高知、長崎、沖縄、大阪の11保健所管内に在住していた45~74歳の7万2,783人(男性3万2,050人、女性4万733人)を対象に、2015年まで追跡調査を行った。
研究グループは、食事のグリセミック・インデックス(GI)、グリセミック・ロード(GL)と、全死亡および主要な死因別にみた死亡リスクとの関連を調べた。
GLは、GIにその食品の標準摂取量(サービング)あたりに含まれる炭水化物のグラム数をかけ、100で割ることで求めた値。ある食品を1食分食べたときに、血糖値がどれくらい上昇するかを知る目安になる。
血糖を緩やかに上昇させる食品が多い食事内容であっても、摂取量が多ければ食事のGLは高くなる。逆に、血糖を急激に上昇させる食品の摂取が多い食事であっても、摂取量が少なければ食事のGLは低くなる。
「炭水化物は、私たちの食生活での重要なエネルギー源のひとつですが、炭水化物の摂取による血糖値の上昇は、さまざまな慢性疾患に影響する可能性があります。食事に含まれる食品が、食後の血糖値をどの程度上昇させるかを表す指標としてGIやGLがあります」と、研究者は述べている。
グリセミック・インデックス(GI)が低いと死亡リスクは低下
研究グループは、調査の参加者にアンケートに答えてもらい、食事のGIとGLを算出した。
GIと死亡リスクに関係を解析した結果、GIが高いほど全死亡リスクは高く、GIがもっとも低いグループに比べ、GIがもっとも高いグループの全死亡リスクは14%高いことが分かった。
さらに、死因別では、GIがもっとも低いグループに比べ、GIがもっとも高いグループの死亡リスクは、循環器疾患で28%、心疾患で33%、脳血管疾患で32%、呼吸器疾患で45%、それぞれ上昇した。これらの死因についても、GIが高いほど死亡リスクが高いことが明らかになった。
一方、GLについては、全死亡リスクとの関連はみられなかったが、死因別の死亡リスクでは、循環器疾患と脳血管疾患で、GLが高いほど死亡リスクが高くなった。
GLがもっとも低いグループに比べ、GLがもっとも高いグループの死因別死亡リスクは、循環器疾患で24%、脳血管疾患で34%、呼吸器疾患で35%、それぞれ上昇した。
男女別に行った解析でも、同様の結果になった。
グリセミック・インデックス(GI)と死亡原因別の死亡リスク
GIが高くなると死亡リスクが上昇した
グリセミック・ロード(GL)と死亡原因別の死亡リスク
GLが高くなると死因別の死亡リスクが上昇した
出典:国立がん研究センター、2021年
高インスリン血症が循環器疾患の発症に大きく影響
GIやGLについての研究は、ほとんどが欧米人を対象としており、食習慣や死因となる疾病が異なる日本人で、GIやGLと死亡リスクとの関連について調べた研究はこれまでなかった。
これまでの研究でも、GIとGLの値が高いと、ともに全死亡のリスクが高いという結果が報告されている。今回の研究では、GIの値が高いと全死亡のリスクが高く、GLの値とは関係がみられなかった。
これについては、GIとGLを割り当てた成分表の違いや、食品ごとに割り当てられている値が国ごとに異なることが、結果の違いにつながった可能性があるという。
また、今回の研究では、GIとGLの値が高いと、とくに循環器疾患死亡リスクが高いという結果になった。これまでの14件の研究をまとめたメタ解析でも、GIとGLが高いと循環器疾患のリスクが高いことが報告されている。
このことは、食後の血糖値の上昇と、血糖値を下げる働きをもつホルモンであるインスリンが多く分泌された状態である高インスリン血症が、循環器疾患の発症に重要な役割を果たしていることを示している。GI値が高い食事は、血管内の血栓の形成や血管内皮の炎症につながることも報告されている。
高血糖と高インスリン血症があると、中性脂肪や悪玉のLDLコレステロールの値が高くなり、また、収縮期血圧(最高血圧)が上昇するという報告もある。
「これらのメカニズムにより、循環器疾患や心疾患、脳血管疾患のリスクが高まると考えられます。また、高血糖が身体内の炎症や酸化ストレスを誘発し、呼吸器の機能低下につながる可能性も考えられます」と、研究グループでは述べている。
「全粒穀物」が糖尿病リスクを減少 医療費も削減できる
全粒穀物を活用しグリセミック・インデックスを下げる
食事のグリセミック・インデックス(GI)を低くする、すなわち血糖値が上がりにくくするために、全粒穀物を利用する方法が効果的だ。
「全粒穀物(ホールグレイン)」とは、精白などの処理で、糠やふすまなどの外皮、胚芽、胚乳などの部位を取り除いていない穀物。玄米、精米率の低い分つき米、雑穀、麦ごはん、ライ麦パン、全粒粉パンなどがある。
全粒穀物は精製された穀物に比べ、食物繊維が豊富に含まれているだけでなく、ビタミンB群、カリウム、マグネシウム、鉄、抗酸化物質なども含まれている。
全粒穀物を使った食品は、玄米や分つき米などのほかに、パン・シリアル・パスタ・ビスケットなど増えている。
食事に全粒穀物を取り入れると糖尿病リスクが減少
東フィンランド大学とフィンランド保健福祉研究所の研究によると、全粒穀物を食べると、2型糖尿病のリスクが大幅に減少する可能性がある。
研究グループは、フィンランドで実施された全国的な追跡調査の結果を利用して、全粒穀物食品の摂取量の増加が2型糖尿病の予防にもたらす影響について調査した。
毎日の食事で1食に全粒穀物を取り入れただけでも、2型糖尿病の発生リスクは減少し、その結果、糖尿病に関連する医療費などの直接的なコストも削減できるという。
「毎日の食事に全粒穀物を取り入れることで得られる、社会全体の今後10年間の削減コストは、3億ユーロ(390億円、マイナス3.3%)から10億ユーロ(1,300億円、マイナス12.2%)と推定されます。個人レベルでも健康的に生きられる年数の延長を期待できます」と、東フィンランド大学健康科学部のヤンネ マルチカイネン教授は言う。
3分の2は食物繊維が足りていない
2型糖尿病は世界中で増えており、フィンランドでも急速に増えている。全粒穀物は体重コントロールにも役立つ可能性があり、2型糖尿病を予防・改善するためのカギになるとしている。
「しかし実際には、フィンランド人の3分の1は、毎日1回も全粒穀物を食べておらず、3分の2は食物繊維の摂取量が少な過ぎます。食物繊維を毎日摂ることと糖尿病リスクの低下との関連は、多くの研究で実証されています」と、フィンランド保健福祉研究所のヤアナ リンドストローム氏は述べている。
多目的コホート研究「JPHC Study」(国立がん研究センター がん対策研究所 予防関連プロジェクト)
Dietary glycemic index, glycemic load and mortality: Japan Public Health Center-based prospective study(European Journal of Nutrition 2021年6月22日)
Increased consumption of whole grains could significantly reduce the economic impact of type 2 diabetes(東フィンランド大学 2021年10月25日)
Type 2 Diabetes-Related Health Economic Impact Associated with Increased Whole Grains Consumption among Adults in Finland(Nutrients 2021年10月13日)
[ Terahata ]