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2022年06月15日

ビフィズス菌を食べると認知症予防につながる 糖尿病の人は脳の老化が加速しやすい

 順天堂大学は、ビフィズス菌を摂取することで、軽度認知障害(MCI)のある患者の認知機能の改善、および脳萎縮の進行を抑制できることを明らかにした。

 軽度の認知障害のある患者130人を対象に、ランダム化対照比較試験を実施。ビフィズス菌の摂取による認知機能や、MRI画像診断における脳萎縮度、さらには腸内細菌叢への影響を調べ、軽度認知障害患者の認知機能を改善できることを確認した。

 ビフィズス菌は、加齢とともに著しく減少することが知られている。研究グループはこの成果を得て、「今後は、腸の環境と脳機能との関連性について、実地医療の視点で確認していきたい」としている。

「軽度認知障害」は認知症の前段階の脳の老化

 「軽度認知障害」(MCI)は、認知症と正常の中間にある状態。記憶力や判断力、言語能力、物事を組み立てて行う能力といった認知機能に多少の低下があるものの、日常生活にはそれほど支障はない。しかし、対策をしないでいると、認知症に進行しやすい状態なので、適切な治療を行うことが大切となる。

 超高齢社会となった日本では、現在85歳以上の4人に1人が認知症で、2025年には65歳以上の高齢者の5人に1人の約700万人に急増すると推測されており、社会的な問題となっている。

 認知症の前段階である軽度認知障害の患者は、現在国内では約400万人いるとされ、世界的には国によって65歳以上の人口の7~42%が軽度認知障害の状態であるとも推計されている。

 軽度認知障害患者のうち、年間10~30%の人が認知症に移行するとみられている。軽度認知障害や認知症に対する有効な治療法がないなか、発症予防に注目が集まっており、とくに、生活習慣の改善など日常生活の中で実践できる有効な対策が求められている。

腸内環境と脳の機能とが関連する「脳腸相関」を解明

 一方で、ヒトの腸管内には、100兆から1,000兆個の数の、種類にして約1,000種類の腸内細菌が生きている。顕微鏡で腸のなかをみると、それらはまるで植物が群生している「お花畑(フローラ)」のようにみえることから、腸内フローラと呼ばれている。

 腸内フローラはさまざまな全身的な疾患に関連しており、健康と密接に連関していることが分かってきた。腸内フローラをコントロールし、健康維持に役立てようという、新しい治療への期待が高まっている。

 腸内細菌を含め、腸と脳の機能が連関することを示す「脳腸相関」も注目されている。腸は「第2の脳」とも呼ばれる、独自の神経ネットワークをもっており、生物にとって重要な器官である脳と腸が、互いに密接に影響を及ぼしあっていると考えられている。

 順天堂大学では、この「脳腸相関」について、臨床的社会実装化に取り組んでおり、認知障害やうつ病などの増加するメンタル不調に役立てる研究をしている。

 2002年には、同大学の消化器内科が中心となり、腸内細菌と中枢神経系との相関関係についての学会を世界に先駆けて日本で立ち上げた。

関連情報

ビフィズス菌を摂取すると「見当識」が改善される

 研究グループは今回、東京都江東区の高齢者医療の拠点である、順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センターを中心に、軽度認知障害のある患者130人を対象とするプラセボ対照ランダム化二重盲検並行群間比較試験を実施した。

 ビフィズス菌の摂取により、認知機能や、MRI画像診断による脳萎縮度、および腸内細菌叢にどのような影響があらわれるかを調べた。

 対象者をランダムに、ビフィズス菌を200億個含む粉末(スティック)を摂取する群と、プラセボ粉末(スティック)を摂取する群に分け、それぞれ1日1スティック、24週間摂取してもらった。

 その結果、認知機能検査では、ビフィズス菌の摂取により、プラセボ摂取群に比べて、「見当識」が改善されていることが明らかになった。

 「見当識」は、日付や現在の時刻、場所や周囲の状況、人物の把握などを総合的に判断し、自分が現在おかれている状況を把握し理解する能力のこと。

 これらの能力が欠如してしまう「見当識障害」になると、日常生活をおくるなかでさまざまな障害があらわれる。これは認知症の症状のひとつで、大きく分けて3つ(時間・場所・ヒト)の障害がある。アルツハイマー型認知症の人では、物忘れの次に起こりやすいとされている。

ビフィズス菌を摂取したグループでは「見当識」が改善した

出典:順天堂大学、2022年

ビフィズス菌を摂取している人は脳萎縮の進行が抑制

 ビフィズス菌を摂取したグループでは、「見当識」が有意に改善されただけでなく、別の認知機能検査(MMSE)でも、認知機能が低い(MMSE<25)グループで、「時間の見当識」「文章書字」の項目が有意に改善していることが示された。

 さらに、ビフィズス菌を摂取したグループでは、MRI画像解析により、認知障害と関連のある脳萎縮の進行が抑制されていることも確認した。

 脳萎縮の状態を確認するツールとして、大脳萎縮の評価に有用とされているVBM解析手段のなかから、日本で広く使われている「VSRAD(ブイエスラド)」プログラムを用いて、脳の萎縮の状態を検証した。

 ビフィズス菌の摂取の前後で比べたところ、全脳委縮領域の割合の変動で脳萎縮の進行度合いに有意差が確認され、ビフィズス菌摂取群では、脳萎縮の進行が抑制されていることが示された。

認知機能が高い群でビフィズス菌の占有率が高いことが判明した

出典:順天堂大学、2022年

プロバイオティクスが認知機能の低下を抑制する効果を研究

 ビフィズス菌は、加齢とともに著しく減少することが知られている。研究グループは今回の研究で、そのビフィズス菌摂取によって軽度認知障害(MCI)患者の認知機能が改善することを確認した。

 「この成果を今後は、腸の環境と脳機能との関連性について、実地医療の視点で確認していきたいと考えています」と、研究グループでは述べている。

 「プロバイオティクス」とは、腸内環境のバランスを改善することにより、ヒトに有益な作用をもたらす生きた微生物のこと。

 「たとえば、認知機能の低下を招く疾患へのプロバイオティクスの効果や、神経疾患と腸内環境の関連性や、プロバイオティクスの作用・効果などについての検証を開始していきたいと考えています」。

 「その検証により、今まで治療が難しかった領域について、腸内環境ならびに脳と腸との連関に注目することで、新たな光が見えてくる可能性が考えられます」としている。

 研究は、順天堂大学大学院医学研究科ジェロントロジー研究センターの浅岡大介准教授、大草敏史特任教授、佐藤信紘特任教授らによるもの。研究成果は、「Journal of Alzheimer's Disease」にオンライン掲載された。

 順天堂大学は高齢者医療を重要視しており、外来に専門の窓口(長寿いきいきサポート外来)を設置し、対策を早期に行うことにより、フレイル・ロコモ・認知症対策、さらには寝たきり・要介護予防に取り組んでいる。

 2021年に設立したジェロントロジー研究センターや、腸内フローラ研究講座で、認知障害やうつ病などの増加する神経精神疾患に、「脳腸相関」がどのように関与しているかなどについて、精力的に研究を推進していくとしている。

糖尿病の人は、血糖コントロールが良好でないと、脳の老化が加速しやすい

 糖尿病の人は、血糖コントロールが良好でないと、脳の老化が加速するという研究が発表されている。

 糖尿病の人は、糖尿病のない同年齢の人に比べて、加齢にともなう脳の老化が約26%加速することが、米ニューヨーク州立大学による50~80歳の中高年約2万人が登録されたUK Biobankのデータ解析で明らかになった。

 糖尿病の人は、加齢にともなう実行機能の低下が13.1%多く、処理速度の低下は6.7%多かった。糖尿病による脳の老化に、インスリンによる脳のグルコース調節の不調が関わっている可能性がある。

 加齢と2型糖尿病の両方が、作業記憶・学習・柔軟な思考などの実行機能、さらには脳の処理速度の変化に影響しているという。さらに、2型糖尿病と正式に診断される何年も前から、すでに脳に重大な構造的損傷が起きている可能性もある。

 研究グループは、UK Biobankに登録された50~80歳の約2万人のデータセットを解析し、通常の老化に加えて、糖尿病が脳に与える影響を評価した。

 解析の結果、研究グループは、加齢と2型糖尿病の両方が、作業記憶、学習、柔軟な思考などの実行機能の変化、および脳の処理速度の変化を引き起こすことを明らかにした。

 「調査結果は、2型糖尿病とその進行が、脳の老化の加速に関連している可能性を示唆しています。脳でエネルギーの利用可能性が損なわれ、脳の構造と機能に大きな変化が生じている可能性があります」と、同大学コンピュテーショナル脳神経診断研究所のリリアンヌ ムジカパロディ所長は言う。

 「糖尿病が脳の老化を招くメカニズムを解明し、これを予防したり遅らせる治療法を開発する必要があります」としている。

順天堂大学大学院医学研究科ジェロントロジー研究センター
Effect of probiotic Bifidobacterium breve in improving cognitive function and preventing brain atrophy in older patients with suspected mild cognitive impairment: Results of a 24-week randomized, double-blind, placebo-controlled trial (Journal of Alzheimer's Disease 2022年5月7日)
Type 2 diabetes accelerates brain aging and cognitive decline (eLife 2022年5月24日)
Type 2 diabetes mellitus accelerates brain aging and cognitive decline: Complementary findings from UK Biobank and meta-analyses (eLife 2022年5月24日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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