血糖自己測定30年
インスリン注射と血糖自己測定25年
日本と世界の血糖自己測定(SMBG)の現状
 わが国も、また世界も血糖自己測定(SMBG)による糖尿病の管理に関する試験的研究(パイロットスタディ)がスタートしたのは1976年であった。以後10年を経た時点で、わが国ではインスリン自己注射患者を対象に、インスリン自己注射にともなう血糖自己測定の指導管理は健康保険の適応を受けている。

 世界の流れもわが国にほぼ等しく、例えば米国の場合、主たる医療保険では全て糖尿病教育をも含めてインスリンの自己注射や、血糖自己測定諸費用は一定の条件下でその全額、あるいはその一部が負担される仕組みとなっている。
医療スタッフによる血糖自己測定の指導と導入
 アメリカ糖尿病協会から刊行されている「糖尿病コンプリートガイド」(池田義雄監修、医歯薬出版)では、厳格な糖尿病管理のために血糖自己測定の有用なことを多くの紙面を割いて強調している。この際の患者側の備えるべき条件として、表1に示すような内容が記述されている。そして、現場では1週間以内の短期の教育入院において、血糖自己測定の習得は必須項目となっている。これらの指導の責任は全て、いわゆる「健康管理チーム」、中でもティーチングナースの責任において行なわれている。

 表1 厳格な糖尿病管理のすすめられる条件

 厳格な管理計画が実践できるようになるためには,一夜では無理です.多くの助けが必要です.健康管理チームに相談しないで,血糖コントロールを厳格にしようとしてはいけません.すべての人が,厳格な糖尿病管理の候補者であるわけではありません.成功するには,以下のことが必要です.
良好な自己管理の実績があること
血糖コントロールを改善したいと思っていること
糖尿病の自己管理技法,たとえば,インスリンポンプを使えるような教育を受けること
血糖コントロールを厳格にする利点と危険性を理解していること
健康管理チームと頻繁に,そして正直に話し合うことができること
支援してくれる健康管理チーム,家族,友人,仕事仲間がいること
余分の試験紙(血糖測定紙),インスリンポンプ(もし使うなら)の費用と追加の教育指導料を支払うことができること

「アメリカ糖尿病協会 糖尿病コンプリートガイド」より

 一方、わが国では血糖自己測定研究のスタートから10年以上の実績を踏まえて、表2に示すような血糖自己測定の有用性が確認され、かつ表3、および表4に記されている血糖自己測定を指導する医療側の条件と、それを受ける患者側の条件が満たされることを求めつつ、看護師、臨床検査技師、薬剤師などが、測定手技に関しての実質的な指導に関わっている。

 表2 血糖自己測定の有用性

  1. 日常生活に密着して血糖の日内変動を知りうる
  2. その結果,自らの糖尿病状態の理解が容易となり,血糖を正常に保とうとする意欲が養われ,日常生活における自己管理(食事・運動など)がより適当に行われる
  3. 尿糖検査との組み合わせにより,腎における尿糖排泄閾値が明らかにされるため,尿糖検査への信頼性が向上される
  4. インスリン療法が外来管理下でより積極的に行えるようになる
  5. より厳密な血糖コントロールが得られることにより,糖尿病性合併症の進展を防止しうる
  6. 糖尿病妊婦や妊娠を望んでいる糖尿病婦人に積極的に導入することで,厳密な血糖コントロール下での計画妊娠と,それによる安全な分娩が可能となる
  7. 患者教育のメディアとして役立つ
  8. 通院の回数を少なくすることが可能となり,通院のための時間的制約(早期空腹時など)を取り除くとともに,一時的なコントロール入院の必要性を減少する

表3 血糖自己測定―医療側の条件

  1. 適応症例の選択が的確に行える
  2. 患者教育・指導が十分に行える
  3. 患者のニーズへの対応がきめ細かに,かつ速やかに行える
  4. 定期的な手技ほかの管理体制ができている
  5. 医療スタッフ間の関係が円滑である
表4 血糖自己測定―患者側の条件

  1. 糖尿病教育が十分に行われている
  2. 自己測定への動機付けがされている
  3. 得られた血糖値を治療にフィードバックできる能力をもっている
  4. 測定手技を習熟している
  5. 性格的に問題がなく,精神的にも安定している
血糖自己測定器、センサー(チップ)の入手
 わが国における測定器やセンサーの入手は、健康保険の適用を受けているインスリン自己注射患者に関しては、全て医療機関からの貸与、あるいは提供によっている。そして、費用の自己負担はインスリン自己注射にともなう血糖自己測定指導管理料のうちの3割が求められている。ただし、18歳未満の1型糖尿病については公費負担によるため、自己負担はない。

 しかし昨今、非インスリン患者についても、特に2型糖尿病での血糖自己測定導入は、多くの医療機関によって指導や教育の機会がもたれ、この場合には患者自身の理解において自己負担での血糖自己測定がなされている。この場合の血糖自己測定器やセンサーの入手は患者自身の意思によってなされ、その入手先は薬局や薬店を介して全て自己負担によっている。

 世界の現状、特に米国の場合には医療保険の適応が得られるケースにおいても、これらの入手は全て薬局、薬店においてなされ、いわゆるドラッグストアでは血糖自己測定器もセンサーも、いつでも誰でも手軽に入手が可能となっている。このためこれらの販売面では完全な自由競争がなされていて、わが国と比較すると価格面での縛りは殆どないといってよい状態にある。

 インスリン自己測定患者の場合、わが国ではかなり手厚いサポートがなされているのに対して、米国等では加入している医療保険の種類によっても血糖自己測定に関する諸費用のサポートは、まちまちだというのは大きな相違点である。

 今後の非インスリン注射患者への血糖自己測定のさらなる拡大が望まれる際、現状ではこれを健康保険でカバーすることは極めて難しいとみられているため、これらのニーズに応える上でのセルフメディケーションの一環としての血糖自己測定に必要な器具等の入手には、米国式の自由競争による入手方法の合理化が望まれるところである。
測定回数とデータの読み方
 「アメリカ糖尿病協会 糖尿病コンプリートガイド」は、血糖自己測定のタイミングについては、表5に示すような指針を打ち出している。勿論、1型の場合と2型の場合とでは測定のタイミングや回数に相異があるのは当然であるが、原則的な指導は表5に示されているような内容によっている。そしてデータの読み方に関しては、血糖値の目標を表6に示すような内容で示している。

 表5 血糖自己測定のタイミング

 測定をする時間は,測定する必要性によって決まります.多くの選択肢があります.好きなときにいつ検査してもいいのですが,血糖値の変動パターンに注意するためには,以下のような検査の代表的な時間があります.
朝食,昼食,夕食(または,とくに多量の間食)の前
就寝前
朝食,昼食,夕食(または,とくに多量の間食)の1〜2時間後
午前2時か3時

「アメリカ糖尿病協会 糖尿病コンプリートガイド」より

 表6 血糖値の目標

測定時
非糖尿病者
糖尿病患者
食 前
115mg/dL以下
80〜120mg/dL
就寝前
120mg/dL以上
100〜140mg/dL

「アメリカ糖尿病協会 糖尿病コンプリートガイド」より

 一方、わが国では表7に示すようなインスリンの注射回数に対応したプロトコールを掲げている。目標とする血糖値は表6と大差のあるはずはなく、全ての血糖自己測定者がこのレベルを維持出来ることが、糖尿病の怖さである合併症を防ぐ目安となる。

 表7 血糖自己測定のプロトコール

 
朝 食
昼 食
夕 食
就 寝
深夜
早朝
A
   
B
C
◎ 必ず  △ できたら  ○ 必要に応じて
A:インスリン1日1回注射
B:インスリン1日2回注射(2分割・混注)
C:インスリン1日3〜4回注射(3〜4分割・混注)

文 献

ADA(アメリカ糖尿病協会):アメリカ糖尿病協会 糖尿病コンプリートガイド(池田義雄監訳・成宮 学・竹村 徹訳),医歯薬出版,2000.

2004年01月


※2012年4月からヘモグロビンA1c(HbA1c)は以前の「JDS値」に0.4を足した「NGSP値」で表わされるようになりました。過去のコンテンツの一部にはこの変更に未対応の部分があります。

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