インスリンポンプSAP・CGM情報ファイル

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第1回「CSII療法のあり方を考える」

聖マリアンナ医科大学 代謝内分泌内科 教授 田中 逸 先生

1. CSIIとの30年間

CSIIとの出会い

Q. 初めてCSIIを知ったのはいつ頃ですか?
Dr.田中:

私は昭和61年に母校の滋賀医科大学を卒業しました。当時は現在のような初期研修医制度はなく、母校の第三内科に入局し、研修医として入院患者さんの診療に当たっていました。当時は動物インスリンも多く用いられていましたが、ヒトインスリンも使われ始めていました。自己血糖測定もティッシュの箱くらいの大きな機器を使って病棟でのみ行っていました。

私たちは毎日の患者さんの自己測定値を見ながら、ヒューマリンRやヒューマリンNなどのヒトインスリンを単独、または1本のシリンジに両方を吸って混合して使っていました。1日2回朝夕食前の注射の場合、例えば朝はR5単位+N8単位、夕はR3単位+N3単位といった具合で、各々RとNの量を血糖の動きを見ながら調節していました。振り返れば、このような経験のおかげでインスリンの用量調節のセンスや2種類のインスリンを混合する感覚を養えたのかなと思っています。

母校の第三内科では当時からヒューマリンRを使用したCSII(Continuous Subcutaneous Insulin Infusion、持続インスリン注入療法)を行っていました。当然、保険収載の治療法ではありませんでしたが、国立大学病院では国費扱いの申請を行って治療することが可能でした。学生教育などにご協力頂くという条件で医療費を国が負担する制度です。私も研修医の期間に多くはありませんが、5〜6例の患者さんを受け持ったように記憶しています。

当時のCSIIはニプロ社製のSP3という国産のインスリン注入ポンプを使っていました。しかし現在のようなプログラム機能はなく、持続注入量の変更もすべて患者さんが自分で操作していました。深夜の低血糖を防止するために眠前に注入量をダウンする、明け方の高血糖を抑えるために早朝にアップするのは患者さん自身のマニュアル操作でした。これは大変手間なことで、うっかり注入量の変更を忘れた時は思わぬ低血糖や高血糖になることもありました。そのようなことから、注入量を1日中変更しない場合もありました。

さらにもう1つ大変だったのは金属製の翼状針を使用していたことです。現在のような二重構造の柔らかい内針はありません。寝返りなどの体動時は当然痛いですし、針のサイズも長くて太かった。しかも針や延長チューブの内部で不定形のインスリン結晶が析出して目詰まりを起こし、インスリン注入がストップすることもしばしばありました。そうなるとケトーシスを伴う著明な高血糖に陥ります。またインスリンもヒト速効型インスリンでしたから、食前の追加注入も食事の15〜30分前に行っていました。現在の超速効型のアナログインスリンにように食直前に注入することも出来ませんでした。

それでもCSII療法を開始すると、患者さんの血糖コントロールが明らかに良くなるケースが多く、それは医師とスタッフと患者さんの熱意と努力の結果だったと思います。残念ながら、CSIIは国立大学病院などの限られた施設で、条件に合致する方しか受けられない治療でしたし、患者さんはもちろん、医師の認知度も今以上にずっと低かったように思います。

Q. 30年前から取り組んでおられたんですね
Dr.田中:

当時は滋賀医大に限らず、京都大学や大阪大学を始め関西の国公立大学病院で行われていました。糖尿病学会の近畿地方会などでも、CSIIに関する症例発表や研究発表が行われ、とても勉強になりました。

Q. 妊婦の患者さんもいたのですか、無事出産できたのですか?
Dr.田中:

おられました。皆さんCSIIを妊娠中に継続して無事に出産されました。また妊娠希望で血糖コントロールをもっと良くしたい方もCSIIを行っていました。

Q. 当時は多くの患者さんが妊娠を諦めさせられていたそうですね
Dr.田中:

当時は現在のレベミルのような妊婦さんにも使える持効型インスリンも超速効型インスリンもありませんでした。動物インスリンで長時間作用型のものはありましたが、当然妊婦さんには使えません。CSIIはどこの施設でも可能な治療法ではありませんでしたから、ヒト中間型インスリン2回+ヒト速効型インスリン3回の1日5回注射で妊娠可能なレベルまでコントロールできない方は妊娠をあきらめていた方も少なくなかったと思います。

その後の軌跡

Q. その後は?

2000年頃からポンプもプログラム可能な機種が使えるようになり、針についても針の形状や刺入角度、二重構造化などの改良により金属針でなく、柔らかい材質の内針で痛みや目詰まりも激減しました。その後も多くの改善、改良がなされました。ポンプ自体の機能も格段に向上しました。持続注入のプログラム機能に加えて、追加注入についても超速効型インスリンが使用可能となり、様々なアルゴリズムが開発され、食事の摂り方や内容に合わせて様々な注入パターンを選択できるようになりました。

SMBGのデバイスも大いに進歩し、現在ではわずか0.6μlの血液量で5〜6秒後には測定結果が分かります。さらにCGM(Continuous Glucose Monitoring、連続グルコースモニタリング)で1日の血糖変動を把握することも可能です。すでにCGMとインスリンポンプを組み合わせた新しいCSIIの機器も登場し、この30年の進歩には目を見張るばかりです。


2015年08月 公開

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