第3回目は、神奈川県鎌倉市の湘南鎌倉総合病院の菅原美喜子さんに、間食指導のコツについてうかがいました。ドクターや同僚の栄養士さん達と連携をとりながら、新たな試みにも積極的に挑戦しておられます。
貴院の栄養指導状況について教えて下さい。
菅原:当院は、9名の管理栄養士が栄養指導を行っています。年間約9,000件行っている栄養指導のうち、糖尿病の方は3割位。糖尿病の教育入院は常に5名位入っておられます。1型糖尿病患者さんは、糖尿病患者さんのうちの1割満たない位です。30〜50代の糖尿病患者さんは、肥満のある方が多いようです。
糖尿病患者さんの傾向はいかがですか?
菅原:いろいろな患者さんがおられますね。薬がどんどん増えていってしまって、やっぱり食事療法をきちんとやるしかないよね、と初心に戻られる方など、なかなか改善しない患者さんは食生活全体の見直しが必要になってきます。
間食(おやつ・嗜好品)は、大抵の患者さんが召し上がっておられます。一切食べないという方にはお会いしたことはないぐらい。ただ、自分からは食べないけど、家族や周りの人たちが食べるのに便乗して食べているという方はけっこういますね。やはり、間食を良いものだと思って食べている方はあまりいません。
定年して時間ができるようになると、運動をよくするようになる方もいますが、手持ち無沙汰で間食をよく摂るようになる方もいます。また、甘い物を食べたいがためにご飯を残したり、ダイエットで3食の食事(ほとんどが主食)を減らしたがために、逆に間食が増えてしまった方もおられます。
間食の問題は、同時にそれは、3食の食事の摂り方にも問題がある場合が多いと思います。どうしたら良いからわからない、改善のために何から初めていいのかわからない、様々な疑問や不安を持って栄養指導室にいらっしゃいますね。
そのような中、私たちは患者さんと会話をしていく中からいくつか提案を行い、その中からできそうな事を自分で見つけてもらって、自分自身で計画を立てていく、というプロセスが非常に大切だと考えています。どんな指導をしても、実行するのはご本人ですからね。私たちはそのきっかけ作りと背中を押す役目に徹しようと心がけています。
どのような栄養指導を行っていますか?
菅原:初診時は、食事の記録表を書いてきてもらいたいところですが、実際は患者さんに直接聞き取りを行いながら、私たちが書き出していくことが多いです。3日分の食事内容と量を細かく伺います。間食の発言がない場合、「普段、間食はしないんですか?」などと、間食習慣について、必ず確かめます。
お菓子などは、指導用サンプルや市販されている食品のカロリー別グラフ資料など、ビジュアルのあるものを見ながら確認すると話が盛り上がりますね。市販の食品は、名前がわかればパソコンでその商品のカロリーなどを調べることもできますので、その場でチェックしたりもします。
患者さんは大抵、糖尿病と聞くと甘い物は食べてはいけないと思っていることが多いので、「食べてはいけないものはないんですよ」と安心していただきつつ、「でも、量と頻度に注意が必要なんです」と、量や食べ方を指導します。糖尿病は、食べたことで痛いとか苦しいとか、急激な体の変化は起こりませんが、何も考えずに食べていると、血糖コントロールに悪影響を及ぼしますから。
現代の食生活から甘い物をなくしてしまうのは難しいですし、ダメダメと言われると、反発したくなりますから、決してダメという言葉は使いません。また、ダメと言われるからと、正確な状況を言わなくなってしまう、という悪循環も生み出します。
「私は、おやつは食べていません」と仰っているのに、数値が下がらないという方もいて、本当に食べていないのかな?と疑問に思ったりすることもあります。そういう場合は、あまり問い詰めすぎても険悪な雰囲気になってしまうので、別の方向から話題を振ってみるなどの工夫をしてみます。
例えば、「自宅では何をされていますか?」「暇な時、どう過ごされていますか?」「小腹が減った時はどうしてますか?」など、患者さんが隠している場合もありますが、忘れていることもあるので、さまざまなシチュエーションをイメージしていただき、その回答から、患者さんの食傾向を探っていくことも有効です。
指導時の資料画像
どのような指導資料を使っていますか?
菅原:減量が必要な方は、現在食べている間食を1日これだけ減らしていけば、1カ月にどの位体重が減るかを数字で明確化し、モチベーションを高めるお手伝いをします。単に、「間食が多いので減らしてください」では曖昧で実行してもらえません。
例えば、1日250kcal分の間食を減らしていけば1カ月で1kg減量できるといった話しをすると、それならできそう!と多くの方が乗り気になってくださいます。そういった際には、脂肪サンプルを見せて重さを実感してもらったりも。数字や視覚でのアプローチはとても有効です。
間食を改善した症例はありますか?
菅原:では、お2人紹介いたします。
1人目は、44歳・女性。25歳の時、2型糖尿病と診断され、食事療法がうまくいかずインスリン療法となりました。5〜6年前より、インスリン療法を自己中断。昨年、久しぶりの受診時にはHbA1c13.3%、空腹時血糖541mg/dLと著明な悪化を認め、今年5月末から1週間、当院で教育入院されました。
9時から14時まで週3回のパート勤務のため昼食が遅くなり、帰宅後にドカ食いすることが多かったそうです。また、食事は菓子パン(1回で2〜3個)やお菓子が食事代わりとなっていることも多かったのですが、体重は45kg以上に増加することはなかったので、量に歯止めなく食べ続けていたそうです。
入院中、規則的に3食の食事をしっかり摂る習慣を学んだことで、間食への欲求が激減。甘い物をなくしたことで血糖値が下がり、目に見えて改善したことが自分自身の食習慣を見直すきっかけになったようです。
退院したら、まずは3食をしっかり摂ることからやってみると決意されました。過去に中断歴があるため、初めから“ダメ”と言わず、継続することを最優先の目標にしました。
元々甘い物が好きな方なので、食べたくなった時のために、低カロリーのデザートがあることを教えてさしあげました。ただし、許可できる範囲は1〜2単位。砂糖を多く含むものではなく、食物繊維を含む、血糖値が上がりにくい食品をお勧めしました。
退院後は、市販の菓子類ではなく、勧めたデザートを利用され、上手に間食と向き合っている様子です。もしもの時は、低カロリーのデザートがある、ということが本人の気を楽にしている部分でもあるようです。退院後1カ月ではHbA1c8.4%、9月の診察時には7.3%と、順調に改善。
もう1人は、53歳・男性です。10年前に、会社の健康診断で高血糖を指摘されたのを放置し、4年前に糖尿病と診断されました。当時の数値はHbA1c7.4%。
母親と2人暮らしで、仕事はIT系のデスクワーク。仕事上、どうしても夕食が遅くなりがちで、いつも夕方、お腹がすいて菓子パンなどの甘い物を食べていたそうです。仕事中に立ち寄りやすいコンビニで、手軽さから菓子パンを選んでいたとか。そして、帰宅後に家族の作った夕食を食べるのですが、おかずは揚げ物などの油を使った料理が多かったとのこと。
この方に対しては、まず、夕方の菓子パンをおにぎりやサンドイッチに変えてもらい、帰宅後の夕食の量を減らす、という指導を行いました。具体的には、夕方のおやつを、“軽食(つなぎ食)”として300kcalを目安に、食品を選ぶようにしていただきました。
すると、翌受診時には、“夕方に軽食を摂る”という習慣が身につき、自分で選んで購入した食品の表示カロリーを記録するようになりました。満腹感があり、腹持ちも良くなったため、帰宅後の夕食は、ある程度カロリーを抑えたものに自然と変わっていったそうです。
時々、菓子類の摂取もありますが、以前に比べ、甘い物の摂取は格段に少なくなりました。間食の内容を改善することで、目に見えて数値が下がったのを見て、本人の意欲がアップし、継続につながっているものと思います。今年9月の受診時はHbA1c5.9%。ここ数年は、6%前後で推移しています。
間食を“つなぎ食”として利用する方法は有効のようですね。
菅原:先程の2番目の方のように、働き盛り世代で、食事の時間が不規則になってしまう方はとても多く、“軽食”“つなぎ食”という考え方で間食の内容を見直すと、うまくいくケースがあります。
今夜も残業〜ということになると、やはり夕方、お腹がすいてしまいますよね。コンビニで“おやつ”やレジ横にある揚げ物などでしのいでしまうと、仕事が終わる頃にはお腹がペコペコ状態になりがちです。それが、帰り際の外食や帰宅後のドカ食いにつながってしまいます。
“つなぎ食”はおやつでなく、あくまで食事。例えば、おにぎりやサンドイッチなど、患者さんに適切なカロリー内で、ある程度お腹に溜まる物を選んでいただきます。
また、堅い物、噛み応えのある食品もお勧めです。カロリー調整食品などもコンビニでも手軽に手に入るようになりましたので、利用すると良いと思います。
“つなぎ食”をきちんと摂れば、帰宅後は軽く食べる程度で済むはずです。夜を上手に乗り越えられるよう、“つなぎ食”や昼食などで、食への満足感をコントロールする方法を、患者さんと一緒に考えることはとても有効だと思います。
上手なおやつの選び方はありますか?
菅原:商品を選ぶ際のカロリーチェックはほとんどの方に浸透していますが、本人に指導しても、奥様や家族の方が買い物をしておられる場合は、出された食品のカロリーの把握ができない場合があります。家族の方が、きちんと管理していればいいんですけどね。
また、和菓子なら大丈夫と思っている患者さんは、なぜか多いですね。脂質が少ないのですが、砂糖をたくさん使っていることが多く、高カロリーなものもあります。
お煎餅のような甘くないおやつは、砂糖を使っていなければ血糖は上がりにくいですけど、ご存知のようにお煎餅は餅米でできていますし、だいたい1枚だけで終わらないのが怖いですね。ポリポリと2〜3枚・・、結果的に総カロリーがお饅頭と変わらなくなってしまう。
飲み物の基本は水かお茶。飲み物では、どうしても飲みたければ最近よく見る、カロリー“ゼロ”“オフ”のようなものを利用するだけでも多少は違うかもしれません。食べる時間としては、運動前か、食後すぐ(量も少なく済む)をお勧めしています。
運動の推進も積極的に行っているようですね。
菅原:患者さんの中には、“運動をしているから大丈夫!”“食べた分だけ運動して消費すればいいでしょ”と自信をもって仰られる方がいます。そういう方へは、運動でカロリー消費するのは、時間と労力の上で、そう簡単ではないことを説明します。
ケーキ1個は5分で食べてしまえるけれど、それを消費するのに散歩を1時間半しなくてはならない、と説明すると患者さんは複雑な心境ながら納得してもらえます。
だからといって、運動は重要です。食べなければ運動しなくても良いわけではありません。どうせ間食を摂るのなら、『自分で運動消費できる分だけ間食を摂る』という考え方もありかもしれません。
毎日1時間散歩する時間があるという方には2単位(160kcal)程度に抑える、とか。ただし、運動で食べたカロリーを消費することはできますが、甘いものを食べると血糖値が上がることを忘れてはなりません。単に運動すれば、間食を“なかったこと”にできるわけではないということです。
当院の土地柄を有効活用する試みも行っています。鎌倉には散歩コースが数多く存在します。鎌倉駅から鶴岡八幡宮まで歩くと、どのくらいの消費カロリーであるかなどの情報提供を行ったりもしています。鎌倉銘菓もたくさんありますので、食べたカロリー分、歩いてみませんか、などと促します。
貴院は、地域に密着した活動も活発に行っていることは有名ですよね。
菅原:今年9月に、病院がリニューアルして、いわゆる病院の売店がコンビニになりました。このコンビニさんと協力して、患者さん向けに配慮したものを販売するなど、新しい提案できないかなと考えています。
また、毎年11月14日の世界糖尿病デーには、地域の方々に糖尿病をよく知ってもらい、早期発見・早期治療のための啓発活動を行っています。医師、看護師、栄養士、薬剤師、検査技師、理学療法士など、様々な職種が集まって、地域に出向きます。
今年は、長谷寺観音堂でのブルーライトアップはもちろん、栄養相談や血糖測定を行ったり、低カロリー食品や甘味料などのサンプル配布、糖尿病に関する掲示物を貼ったりします。毎年、糖尿病患者さんがたくさん集まってきます。
病院嫌いな方でも、私たちが出向くことで、気軽に相談できる場を設け、少しでも健康に対する意識を高めていただけたらと願っています。
ほかに、行っている食事指導の取り組みはありますか?
菅原:当院では、糖尿病の教育入院を行っていますが、1週間の入院中に2〜3kg減量される方がほとんどです。特に、間食が多かった方は、3食を毎日しっかり食べることで、間食を欲さない生活を習慣づけることができます。
間食は、おやつそのものを“食べたい”というより、目の前にあるから手がのびた、小腹がすいたから口寂しくなった、などが誘因となっていることが多いです。
規則正しく、バランス良く食事することの大切さは、すべての基本。教育入院は、これまでの食生活を見直すきっか作りに大いに役立っていると感じています。教育入院は、治療も含まれますが、実際に食事を召し上がってもらい、同じ病気の人と一緒に学んだり、お話したり、得るものは多いと思います。
菅原:今回のインタビューをきっかけに、糖尿病患者さんの食事療法についていろいろ考えてみましたが、症例も際限なく出てきて、間食指導って本当に欠かせないんだなと実感しています。
私たちがやっているのは、栄養指導のみではなく、本当にいろんなことをお話しますので“生活相談”“人生相談”という感じもありますね。そんな想いを感じつつ、今後も患者さんのために頑張りたいと想います。
現場のお話は大変参考になると思います。有難うございました。
<今日のまとめ> 間食指導「私の3カ条」
- 食べてはいけないものはないけれど、量と頻度に注意!
- 摂取カロリー・消費カロリーを数字で明確にする
- 改善プランは、患者さん自身でできる事を見つけ、実行してもらう
【 Profile 】
菅原美喜子(すがわらみきこ)さん
管理栄養士
藤女子大学人間生活学部食物栄養学科卒業
医療法人沖縄徳州会
湘南鎌倉総合病院栄養管理室 勤務