とうゆうニュース第81号(平成15年7月1日発行)より

インスリン抵抗性

群馬大学医学部保健学科 伴野 祥一

 

 20年ほど前には糖尿病患者数は、全国で200万人といわれていました。ところが、現在は690万人、2010年には1000万人を超えると予想されています。どうして、そんなことになったのでしょう?

 糖尿病の発症には、インスリン分泌低下(インスリンの出が悪い)と、インスリン抵抗性(インスリンが十分効果を発揮できない)の二つが関与していると考えられています。かつての日本人の糖尿病はインスリン分泌低下を主な原因とする人が多かったと思われます。インスリン分泌低下は遺伝的な要素が大きく、急にそういう人が増えたとは考えられません。最近の糖尿病増加は、インスリン抵抗性を主な原因とする人が増えているためと考えられます。

 インスリン抵抗性を起こす原因として、遺伝のほか、肥満・運動不足・高脂肪食・ストレスなどがあげられています。とくに肥満については新しいことがわかってきています。中年太りというのは、お腹の中の脂肪細胞が余分なエネルギーを脂肪に変えて貯えた結果ですが、この脂肪細胞が様々な物質を分泌してインスリン抵抗性に大きく関与していることがわかってきました。太っていないとき(脂肪細胞が膨らんでいないとき)は脂肪細胞からアディポネクチンというインスリンの働きを良くする物質が出ています。ところが太ってきますと(脂肪細胞が膨らむ)、このインスリンの働きを良くする物質が出なくなり、逆にインスリンの働きを悪くする物質(TNA−αや遊離脂肪酸)が分泌されてインスリンが十分働けなくなって、血糖値が上昇します(図1)。

図1 肥満とインスリン抵抗性


 「太っていると糖尿病になりやすい」「やせると血糖値が良くなる」というのはこんな理屈がつけられるようになりました。糖尿病予備群の境界型や糖尿病になって間もない人は、インスリンは十分出ているのに血糖が高い、つまり、インスリン抵抗性が強い人が多いのです。

 また、インスリン抵抗性という状態は、高中性脂肪血症・低HDL血症(善玉コレステロールの低下)。高血圧など動脈硬化の原因となる要素が集まってしまう状態でもあります(図2)。糖尿病に狭心症や心筋梗塞、脳卒中が多い理由のひとつとされています。

図2
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