第2章 子どもたちのこころとからだと糖尿病のある生活
3.糖尿病とともに大人の女性への階段を登る―思春期―
(3)女性への階段を上る〜こころはどう変化していくのでしょうか?

糖尿病と女性のライフサポートネットワーク
加藤 陽子
(久留米大学医学部看護学科 母性看護学・助産学 准教授)
冨永 幸恵
(秋田大学医学部附属病院 糖尿病看護認定看護師)

思春期のこころの変化ってどのようなものですか?
 思春期は、幼いころには分泌が少なかった性に関係のあるホルモンの分泌も盛んになることで、前回の「(1)女性への階段を上る〜からだはどう変化していくでしょうか?」にあったようにからだが変化していきます。特に月経が開始することは大きな変化の一つです。月経周期によるホルモンバランスの変化により、糖尿病を持つ思春期の子ども達にとっては血糖コントロールが乱れやすい時期です。
 思春期にはこのようなからだの変化だけでなく、こころにも大きな変化が起こってきます。その変化に、思春期の子ども達はストレスを感じたり、混乱をしたりする思春期特有の心理状態になることもあります。しかし、その心理的特徴には個人差や男女差やその他いろいろなことが関係しており、一人一人その程度は違います。この思春期という時期の心理的特徴をその特徴毎にこれから説明していきます。

「自分のからだや容姿への関心が高まる時期」です
 思春期になると女性も男性も自分の外見をよく見せようと、髪型や服装にとても関心を持つようになります。その反面、自分のからだや外見に対する不安や悩みも大きくなります。特に女の子の場合は、体型や体重が大きな関心事です。血糖コントロールのためにインスリン注射を必要とされている子ども達の中には「インスリン注射を打つと太る」という思いから、インスリン注射をスキップしたりする行動がみられることもあります。このような行動は過度のダイエットに繋がっていくこともあるので注意をしなければなりません。過度のダイエットは、月経不順となることがあり無月経が続くと将来の不妊症の恐れもでてきます。また、インスリン注射のスキップは、高血糖、脂肪を分解することでのケトン体産生により体が酸性に傾き、重症化すると意識障害にもなる恐れがあるので気を付けなければなりません。

「親子の関係性が変わってくる時期」です
 思春期になると、物事を自分で考え、判断し、行動したいと思うようになります。これは、親の保護から独立したいという気持ちとも言われています。しかし、思春期には、まだ完全に独立するには至らず、親に依存したい気持ちと独立したい気持ちの相反する感情を持っています。
 思春期は、親子の間に考え方や気持ちのずれが生じ、親や身近な大人に対し、一時的に反抗的になったり、幻滅を感じたりするようになります。これは反抗期とも言われ、子どもが大人になる過程で大切な時期です。この時に親子は互いに自分の考えを、衝突しながらでも、納得がいくまで話合うことが大切になってきます。この家庭内での経験が、大人への一歩となります。
 糖尿病の治療に関しても、親の管理下から少しずつ自立していきます。反抗期には会話も少なくなりがちで、子どもの管理状況が見えにくく、血糖コントロールが乱れるのではないかと心配になる親御さんも多いと思います。思春期にある糖尿病を持つ子ども達にとっても、今まで親や身内のサポートをうけながら行ってきた血糖コントロールを、自分が主体となって行っていく時期となり、戸惑うことも出てくると思います。困ったときはいつでも医療者に相談してください。サマーキャンプやヤングの会なども、他の糖尿病を持つ子ども達やサマーキャンプのOG・OB先輩と交流できるよい機会です。交流を通じて、先輩方の成長した姿や経験談を聞くことで将来に対する不安や疑問なども相談でき、多くのヒントを得られる場でもあり、このような会への参加も良いかと思います。

「友達との関係性が変わってくる時期」です
 思春期になると、徐々に親から距離を置き、仲間意識が強くなり、友達との関係が深まります。思春期に、自分の不安や悩みや心のうちを語り合えるような親友といえる深い関係性を築ける友達もできる時期になります。クラブ活動の参加や深夜近くまでの試験勉強、友人との外食の機会が増えるなど、生活の変化が血糖コントロールにも影響してくることがあります。目に見えないストレスや疲労が蓄積しやすくもなります。外食の摂り方や頻度、夜食のメニューの工夫、睡眠時間の確保、運動を取り入れるなどで規律ある生活習慣を獲得できるようにしましょう。
 また、思春期には仲間からの圧力(ピア・プレッシャーといいます)を感じることもあります。思春期は仲間の存在が大きい分、みんなと同じでなければいけないと思って、自分の気持ちとは別の行動をしてみたり、仲間の言動に振り回されたりして、上手く友人関係が築けないこともあります。糖尿病でインスリン注射をしている場合は友達との外食の際に注射を打つことにためらいを感じることもあるかもしれません。外食時の注射を打つ場所やタイミングについて、またインスリンポンプへの切り替えなど治療法の検討も可能ですので、そのような場合はまず医療者へ相談してみてください。
 このように思春期は、友人関係が大きな悩みごとになることもありますが、友人を通してたくさん成長できる機会でもあります。友人と衝突をしたり、自分の思いを上手く伝えられず困惑することもあるかと思いますが、このような体験が自分の成長にもつながります。糖尿病と付き合っていく自分自身を支えてくれる大切な友人もできるかもしれません。
 しかし、友人とのかかわりの中で、自分だけでは解決困難なこともあるかもしれません。そんな時は、身近な大人もきっと力になってくれると思いますので、一人でなんでも抱え込まず相談してみてください。

「異性との関係性が変わってくる時期」です
 思春期になる女の子も男の子もお互いを異性として意識をし始めます。この時期は、こころの中で異性の存在の占める割合が大きくなってきて、思春期の心を大きく揺さぶることになってきます。なかには異性ではなく同性に対してそのような感情を抱くこともあります。
 また、思春期では時として自分でもコントロールできないような性に対する欲求があらわれれて、自分自身でも驚き、戸惑うこともあります。一般的にこのような衝動は男の子の方に強いと言われ、男の子と女の子の性に対する欲求は異なることが多いです。
 ひとを好きになることは決して悪いことではありません。ただこの時期は、性衝動のコントロールも未熟だったり、性の知識が乏しかったりすることもあります。また、「好き」だから、相手が求めるから・・と、安易に性行為に至ることで、望まない妊娠や性感染症に罹ったりする可能性もあり、さらに性感染症は、将来妊娠したいと考える頃に不妊症の原因になる可能性もあります。
 からだやこころの発育も途中の思春期の子ども達にとって、望まない妊娠や性感染症は心身への影響が大きいだけでなく、現在の学校生活及び将来の自分自身の進む方向にも大きく影響を与えます。場合によっては思い描いている将来の夢がかなわない可能性もはらんでおり、思春期の望まない妊娠や性感染症は大きな問題となります。
 周囲の大人は、この時期にある子ども達と、まずは、ひとを好きになるという思いや、思春期のからだの変化と併せて、妊娠や出産のことを気軽に話せる関係性を日頃から作っておくことが大事ではないかと思います。そのためにも、思春期という難しい時期ではありますが、この時期の子ども達の体や心の変化を理解され、子ども達と向き合う時間、話し合える時間を作っていくことが大切だと思います。そしてそれは、思春期にある糖尿病を持つ女性の将来の結婚や妊娠・出産にも繋がっていくと考えています。

引用・参考文献
  • 1)加藤福美:パートⅡ女性のライフサイクル各期のヘルスプロモーション Ⅵライフサイクル活気の健康 2思春期の健康 3)心理社会的側面 高橋真理.村本淳子編「ウィメンズヘルスナーシング女性のライフサイクルとナーシングー女性の生涯発達と看護―第2版」ヌーヴェルヒロカワ.東京.P159.2013.
  • 2)高橋真理、工藤美子:第5章女性のライフステージ各期における看護B思春期の健康と看護①思春期女性の特徴②心理・社会的特徴 森恵美他「系統看護講座専門分野Ⅱ母性看護学概論母性看護学①」医学書院.東京.P180-183.2012.
  • 3)日本糖尿病教育・看護学会:糖尿病に強い看護師育成支援テキスト、日本看護協会出版会P59-60.
(2016年05月 公開)
目 次
第1章 基礎講座編
1. 糖尿病と女性のからだ
2. あなたと私のための糖尿病基礎講座
第2章 子どもたちのこころとからだと糖尿病のある生活
1.糖尿病とともにある子どもたち―幼児―
2.糖尿病とともにある子どもたち―学童―
3.糖尿病とともに大人の女性への階段を登る―思春期―
第3章 大人の女性として(青年期)“女性が知っておいた方がいいことって?”
第4章 女性が生命を繋ぐその瞬間(とき)に〜妊娠・出産編
第5章 大変だけど、楽しい。子育てまっ最中の時に
第6章 次の世代を見守りながら育む時を(どう)過ごすか
第7章 看護職の方々へ
1. さあ、看護職者の出番です!
番外編 明日からの糖代謝異常妊婦のケアを考えよう

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